2020年10月29日木曜日

スマート農業を進める際、情報処理のニーズと能力が合っているか?

 スマート農業技術を導入する際、多くの場合では、センサ機器から大量のデータが生成されるので、そのデータの活用をいかに進めるかが生産管理上の課題に浮かび上がりやすくなります。

 経営組織論の文献を調べますと、企業などの経営組織にとって、情報処理に対するニーズと情報処理能力を適合させる必要があることが、ガルブレイス(1973)で論じられています。当然、それらがうまく適合しないことによって、経営組織の業績や成果に対して負の影響が及びやすくなります

 私は、このブログで、施設園芸でのスマート農業の導入事例について紹介する記事をいくつか書きました。このうち、「施設イチゴ栽培での環境モニタリングシステムの導入事例」では、環境モニタリングシステムを採用した農業者が、栽培環境データに関する分析のニーズ、処理能力を上手く適合させていたことを確かめています。

 これに対して、「施設花卉栽培での環境モニタリングシステムの導入事例」では、環境モニタリングシステムを採用した農業者が、温度管理に関するデータ分析ではニーズ、処理能力を適合させられたものの、電照管理やCO2、飽差の管理に関するデータ分析ではそれらを適合させられない状況に置かれてしまいました。

 これらの事例より、栽培環境データ分析に関する農業者のニーズと処理能力は、管理対象項目(温度,電照、CO2,飽差等)や、統計解析に関する彼らの学習経験や、既往の栽培管理方針等に左右されてそれぞれ決まり、両者が適合しない状況が生じ得ることが確かめられます。また、後者の事例のようにその不適合によって環境モニタリングシステムの利用効果に対する農業者の評価が低められる場合があることが示唆されます。

 こうした分析結果より、施設園芸での環境モニタリングシステムの普及を図る改良普及機関にとっては、生産者への聞き取りを通じて、管理対象項目別に、様々なデータ分析に関するニーズ、処理能力を生産者がどのように備えているか、両者をいかに適合させられるかについて注意深く検討する必要があると考えられます。

引用文献:
ジョン・ケネス・ガルブレイス(1973)『横断組織の設計』(梅津祐良訳)ダイヤモンド社.

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