2021年2月26日金曜日

農学部における統計学教育

香川大学農学部ではこれまで、他大学の先生に「生物統計学」の非常勤講師をお願いしてきましたが、コストカットもあって令和3年度から農学部所属の教員数名で「生物統計学」を担当することになりました。私もその担当に加わることになりました。

担当教員どうしで打ち合わせ会議があり、講義内容の打ち合わせ、分担、シラバス作成へと進みました。私の主な担当テーマは、
①統計的推測の基本的な考え方
②標準正規分布、カイ二乗分布、t分布、F分布の基本性質の解説
③代表的な区間推定(上記の分布関数を使って行えるもの;母集団が正規分布に従うときのその母平均、母分散に関する)
④代表的な仮説検定:z検定、t検定、ウェルチ検定、F検定、カイ二乗検定
です。他の先生が、実験計画法、分散分析、回帰分析などを担当して講義されます。

従来の香川大学農学部の統計学教育の状況について農学部教員に意見を尋ねるアンケート調査が行われていて、その結果によると、従来の農学部の統計学教育に満足しかねる教員が多くいました。現状を改善せよという声が強いので、期待に応える講義をしなければと責任を感じます。

昔は統計は大学入試でめったに出題されないから高校の授業で省略されることが多かったかもしれません。今は高校数学で統計は早い段階に取り扱われ、本年から始まった共通テストでは早速出題対象になりました。学生にとっては統計学を受け入れる余地は昔よりは大きくなったのかなと思います。

正規分布の基本特性、また、一般の正規分布に従う確率変数を標準正規分布に従う変数に変換する方法(標準化)については、以前から高校数学の範囲になっています。また、母集団が正規分布に従い、その母分散が既知という条件の下で、標本平均の値を使いながら母平均について区間推定する方法(標準正規分布を使用)も、以前から高校数学の範囲内になっています。

今回の生物統計学の講義の際には、学生にはまずこのあたりを思い出してほしいです。思い出してもらえれば、私が「では母分散が未知だったらどうやって母平均を区間推定するのか?」と話を振ったとき、話に食いついてもらえるだろうと期待しています。

学生へのアピールの方法としては、

母分散が未知の場合に母分散の代わり不偏分散を使うことを考えてみよう
②不偏分散に関わる分布を知っておこう→カイ二乗分布、F分布の登場
標本平均を使いながら母平均について区間推定する際、母標準偏差(σ)の代わりに不偏標準偏差を使ったらどうなるか→標準正規分布に代わってt分布の登場

といった形で数珠つなぎ的に不偏分散、基礎的な分布(カイ二乗分布、F分布、t分布)に注意を向けてもらえるように誘導したいと考えています。学生がこれらの分布にイメージを持てるようになれば、代表的な区間推定、仮説検定の話題に入れる準備もできてくると期待されます。

全体的に、数式の羅列で講義したら学生が修学意欲を喪失する可能性が高いでしょうから、図解も積極的に入れたいと思います。例えば中心極限定理については、標本サイズが大きくなるにつれて標本平均の分布が母平均の周りに集中してくることを描いたイメージ図であっさり説明したいと思います。(私は、小針晛宏先生の『確率・統計入門』(岩波書店)で中心極限定理を学びましたが、この教科書では中心極限定理の証明完成までにかなりの頁数を費やしていました。私が出席していた京大教養部の「数理統計学」の授業では、担当の先生がその証明を板書で説明しようとしていたことが思い出されます)。

また、私の担当テーマの区間推定、仮説検定はEXCELの「データ分析」機能の範囲内なので、EXCELの画面を見せながら、区間推定や仮説検定をEXCEL上で実際にどのように行えるかを解説したいと思います。EXCELの画面に出てくる検定結果も、理論的な説明内容と照らし合わせて学生が円滑に読み取れるようになってもらえれば、と期待しています。

EXCELだけでは物足りない学生も出るでしょうが、幸い、今回の講義では他の先生がRの操作方法を解説しつつ他のテーマを講義されますので、お任せします。

将来的には農学部内でRが使い勝手が良いと思う学生がポツポツ現れるようになって、農学部内で統計分析の研究が少しは流行ってもらえたらと勝手に期待しています。私は別の授業でRコマンダー、R-Studioを紹介するなどしてその手助けをできればと思います。このほか、今回の講義で扱うような古典的な統計学の限界について指摘する研究が出て、代わりにベイズ統計学に期待する流れも徐々に出てきていますので、将来、別の授業でベイズ統計学について紹介できればと考えています。久保拓弥氏『データ解析のための統計モデリング入門』(岩波書店)は、香川大学農学部でも授業で取り扱うニーズはあるのではないかと見ています。

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