2020年10月29日木曜日

スマート農業を進める際、情報処理のニーズと能力が合っているか?

 スマート農業技術を導入する際、多くの場合では、センサ機器から大量のデータが生成されるので、そのデータの活用をいかに進めるかが生産管理上の課題に浮かび上がりやすくなります。

 経営組織論の文献を調べますと、企業などの経営組織にとって、情報処理に対するニーズと情報処理能力を適合させる必要があることが、ガルブレイス(1973)で論じられています。当然、それらがうまく適合しないことによって、経営組織の業績や成果に対して負の影響が及びやすくなります

 私は、このブログで、施設園芸でのスマート農業の導入事例について紹介する記事をいくつか書きました。このうち、「施設イチゴ栽培での環境モニタリングシステムの導入事例」では、環境モニタリングシステムを採用した農業者が、栽培環境データに関する分析のニーズ、処理能力を上手く適合させていたことを確かめています。

 これに対して、「施設花卉栽培での環境モニタリングシステムの導入事例」では、環境モニタリングシステムを採用した農業者が、温度管理に関するデータ分析ではニーズ、処理能力を適合させられたものの、電照管理やCO2、飽差の管理に関するデータ分析ではそれらを適合させられない状況に置かれてしまいました。

 これらの事例より、栽培環境データ分析に関する農業者のニーズと処理能力は、管理対象項目(温度,電照、CO2,飽差等)や、統計解析に関する彼らの学習経験や、既往の栽培管理方針等に左右されてそれぞれ決まり、両者が適合しない状況が生じ得ることが確かめられます。また、後者の事例のようにその不適合によって環境モニタリングシステムの利用効果に対する農業者の評価が低められる場合があることが示唆されます。

 こうした分析結果より、施設園芸での環境モニタリングシステムの普及を図る改良普及機関にとっては、生産者への聞き取りを通じて、管理対象項目別に、様々なデータ分析に関するニーズ、処理能力を生産者がどのように備えているか、両者をいかに適合させられるかについて注意深く検討する必要があると考えられます。

引用文献:
ジョン・ケネス・ガルブレイス(1973)『横断組織の設計』(梅津祐良訳)ダイヤモンド社.

水田センサの費用対効果の試算例

 この記事では稲作での水田センサ導入の費用対効果の試算例を示します。

 稲作での水田センサの導入効果に関する実証事例
 稲作での水田センサの導入効果に関する実証事例がいくつも挙がっています。以下ではそのうち三つを挙げます.

 ・石丸知道氏「水田センサを活用した飽水管理技と水管理の省力化」(南石晃明編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』(養賢堂、2019年、pp. 154-156)

 ここでは、飽水管理区(土壌表面の足跡に水が残る程度の水を保つことを目指す水田)で水田センサを用いて水管理したとき、田面下1cmの水位を長期間維持できたことなどが示されています。

 他方で、農林水産省による水田センサ導入実証プロジェクトがH27年からH28年にかけて多くの地域を対象に行われていて、その結果をまとめたのが以下です。

 農林水産省「水田センサ×技術普及組織による農業ICT導入実証プロジェクト」

 このうち香川県の隣県の事例を二つ取り上げて紹介します。

 ・岡山県での水田センサの利用効果の実証結果が以下に掲載されています。

 農林水産省「岡山県:大型稲作経営体における水田センサ活用による水管理の省力効果及び導入課題の検討」

 この事例では、「センサからの情報に基づき、必要なときだけ圃場に出向いて水管理を行った」→「圃場に出向く頻度が3~4割減少」→「時間のゆとりができ、作業効率が向上」という効果が得られたことが報告されています。この実証では、水位の計測、データの通知機能のみを備え、自動給水機能は備えていない水田センサが使われました。

 ・愛媛県今治市で行われた水田センサ導入効果の実証結果が以下で報告されています。

 農林水産省「愛媛県:水田センサによる水稲水管理作業の有効性確認と良食味米生産の実証」

 この事例で取り組まれた内容は、行われた順番に、以下の通りです。
①良食味米を生産する農家と水稲生産法人のほ場に水田センサを設置
②普及指導員が端末で水田センサ情報(水位等)確認し、農家に情報提供をおこなう
③それに従って農家、法人がほ場で水管理作業する

 これにより得られた成果としては、水田センサを導入した実証農家は、対照群に比べて米の収量が高く、品質が良くなった(476kg/10a、等級1等、タンパク含量6.8%)、ということです。

 以上の事例で、水田センサの導入効果は、水管理労働時間の削減と、収量・品質の改善に表れていました。これに基づいて水田センサ導入の費用対効果に関する試算を以下で進めます。

 試算の大まかな方針:農業者が水田センサを新たに導入して使用するときの費用増加を算出し、水田センサ導入に伴う労働費の節約額を見積もって、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、水田センサ導入にともなう費用増加全体を回収できるようになるのかを考えます。

 設定条件:
 水田センサの機能としては、以下の2通りを考えます。
①水位計測+水位データの収集・送信+通知のみの場合
②水位計測+水位データの収集・送信+通知+自動給水の場合
・価格・料金の仮定は、最安クラスである、㈱ぶらんこ製センサ「ファーモ」を参考にします。「ファーモ」の紹介は以下のページをご参照ください。

 ①の水田センサの本体価格は1台20千円で、②の水田センサは、1台55千円と仮定します。いずれでも通信費は、アカウント作成費(初期費)が16.5千円必要で、月別の料金は無料であると仮定します(以上の通信費はセンサ利用台数に関係なし)。

・生産者の水稲作付面積は5haと仮定します。

・水田センサは作付面積10aあたり1台設置され、使用年数、償却年数は共に4年と仮定します。

 ①の水田センサ採用の費用対効果の試算例:

 ①の場合、機材価格/4年+通信初期費*10a/(4年*作付面積500a)より算出すると、センサ機材費+使用費は、1年・10aあたり5.08千円です(小数点第3位以下四捨五入)。

 農水省の生産費統計によると、10aあたり水管理労働時間は6.3時間(H22年)でした。上で紹介した事例には3割程度の削減という事例がありましたので、以下では、①のタイプの水田センサ導入で水管理労働が2時間削減されると仮定します。

  農業労賃評価は、900円~1200円/時であると仮定します。上記の水管理労働の削減効果を評価すると、1.8~2.4千円/10aとなります。

 よって、この場合、水管理の改善→収量・食味の改善によって、米の販売収入増加が少なくとも2.68~3.28千円/10a だけ期待できるならば(5.08千円と、1.8~2.4千円の差額)、水田センサ導入は費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。香川県の10aあたり米販売収入はここ数年9万円ほどです。よってこの販売収入増額分は、香川県の10aあたり米販売収入の3~4%分の増加に相当します。

 ②の水田センサ採用の費用対効果の試算例:

 ②の場合、機材価格/4年+通信初期費*10a/(4年*作付面積500a)より算出すると、センサ機材費+使用費は、1年・10aあたり13.83千円です(小数点第3位以下四捨五入)。

 ②では自動給水機能が付くので、水管理労働の削減効果は①よりも高くなるはずです。以下では、②のセンサ導入で、水管理労働が10aあたり4時間削減されると仮定します。

  労賃評価が900円~1200円/時であると、以上の労働時間削減効果は、3.6~4.8千円/10aと評価されます。

 以上より、水管理の改善によって米の販売収入増加が少なくとも9.03~10.23千円/10aだけ期待できるならば(13.83千円と、3.6~4.8千円の差額) 、水田センサ導入が費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。前述の香川県の10aあたり米販売収入との比で考えると、その10~12%分の増額に相当します。よって、①のセンサに比べて、投資採算確保のためのハードルはかなり高くなると考えられます。

 終わりに:

 本記事と同様に、水稲のスマート農業技術の導入効果の試算例を示した記事「ITコンバインの費用対効果の試算例」と、今回の記事をまとめて、改良普及・営農指導機関が検討すべき課題を挙げさせていただきたいと思います。

 ITコンバインの使用によって、圃場別の収量や食味等に関するデータが得られ、また、水田センサの使用によって、時期・圃場ごとの水位(水温)のデータが得られます。こうしたデータをどう活用して、肥培管理、水管理の改善効果を高めていくかが、これらの機器の活用では重要な課題になるでしょう。

 こうしたデータの活用は従来、農業者にとっては経験が少なく、不慣れになりがちです。得られたデータを農家間や圃場間で比較する、集団で検討するといった取り組みを強化して、データからの農家の学習、気づきを促す体制があってしかるべきと思われます。こうした取り組みを通じて、優れた生産者の栽培技能を他の生産者が参考にしやすくなるでしょう。

 先進事例の取り組み状況を紹介するなどしながら、営農指導機関がこうしたデータ検討の場をサポートすることも今後求められてくると思われます。

ITコンバインの費用対効果の試算例

 この記事では、ITコンバインの費用対効果の試算例を示させていただきたいと思います。

 稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例
 稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例がいくつも出ています。三つほど挙げます。

 ・森拓也氏・稲毛田優氏「茨城県におけるITコンバインの活用事例」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 131-133)

 ここでは、茨城県つくば市の農業法人の圃場別収量からITコンバインの使用効果を実証しようとしています。農業法人が耕作する圃場別にコシヒカリの収量を、Y社製のITコンバインを導入する前後それぞれで算出します。収量を導入前後で比較すると、圃場別の収量は、もともとあったばらつきが大きく減って、高位平準化されるようになったという結果が述べられています。

 ・石丸知道氏「ITコンバインを活用した圃場別収量マップの作成と収量レベルに対応した増収技術」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 148-151)

 ここでは、福岡県でのITコンバインの実証圃場で採られた収量改善策の例を示しています。ITコンバインの導入に伴う収量増加の効果は、ITコンバインによる収量・食味の診断と、肥培管理の改善をセットで導入することで実現可能になることが指摘されています。

 ・農林水産省による㈱平塚ライスセンター(茨城県八千代町)を対象にした事例
 上の資料の説明を引用します。㈱平塚ライスセンターは、水稲52ha・麦25ha・大豆2haを作付け、従業員は6名(うちパート3名)で、H28年からクボタKSASを導入しました。
 このときKSASの導入により得られた効果は、以下のようになります。
①品種別に色分けしたマップにより作付状況が一目瞭然で確認可能。作業履歴(年内・過去)の振り返りが容易となった。
②収量・水分・タンパク質含有率を圃場毎に数値で確認可能。圃場によって異なる品質を、タンパク質含有率による仕分け乾燥で差別化→ 自信を持って「おいしいお米」をお客様に届けることが可能となった。
③蓄積された過去からの圃場毎の収量推移データから、土壌改良の効果を確認。圃場毎の施肥設計を見直し、収量・食味の改善が可能となった→目標としている収量・食味を達成した圃場増加が増加。平均収量は30kg/10a アップ。

 以下では、こうした事例調査の結果を参考にして、ITコンバインを用いた栽培管理改善に関する費用対効果の試算を進めたいと思います。
 
 試算の大まかな方針
 農業者が「土壌分析をせず従来型コンバインを使い続ける場合」から、「土壌分析による施肥設計と、ITコンバインによる収量・食味診断を活用する場合」へ切り替えるものとします。この移行に伴う費用増加を算出し、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、その費用を回収できるようになるのかを考えます。

 土壌分析の費用について
  JA全農では、肥料設計まで含む土壌分析料金が、1検体あたり約1万円(税込)です。そこで以下では肥料設計まで含む土壌分析料金が、1検体で1万円と仮定します。

①土壌分析の頻度は、毎年から数年おきまで様々に考えられます。
②一般に、水田1枚の面積は様々で、また、作付水田のうち土壌分析の対象となる水田の面積割合も様々です。このため、1回の土壌分析での作付面積1haあたり検体数も変わります。
 
 そこで①、②の条件設定を変えながら、「1年・作付面積10aあたり土壌分析費用」を算出すると、以下のようになります。

表1.1年・作付面積10aあたり土壌分析費用

 従来型コンバインからITコンバインに切り替えることによる機械償却費の変化について:
 次に、従来型コンバインからITコンバインに切り替えることによる機械償却費の増額を、作付面積10aあたりで算出します。
 設定条件:
①単純化のため、ITコンバインの価格が、従来型コンバインよりも50万円高い場合と、100万円高い場合の二通りを考えます。
②償却年数は両タイプのコンバインで共通で、4年、6年、8年の三通りを想定します。
③償却費は定額法で計算します。
④生産者の作付面積は、3haから20haまで5パターンを想定します。
⑤従来型コンバインからITコンバインへの切り替えに伴う10aあたり機械償却費の増額=価格差×10/(償却年数×作付面積a)、が成り立つとします。

 まず①の価格差に応じてケース1、2に分けて、それから②、④の条件を変えて、切り替えに伴う10aあたり機械償却費の増額を求めたのが以下の二つの表です。

 ケース1:ITコンバインの価格が従来型コンバインよりも50万円高い場合


表2.ITコンバイン(価格差50万円)への切替えに伴う10aあたり機械償却費の増額

 
ケース2:ITコンバインの価格が従来型コンバインよりも100万円高い場合

表3.ITコンバイン(価格差100万円)への切替えに伴う10aあたり減価償却費の増額

 
費用対効果の検討例
 農業者の置かれた状況は様々ですが、とりあえず2つの条件を設けて費用対効果の試算を試みます。 

 検討例1: 作付面積が10ha、水田1枚が平均20aで、その1枚ごとに土壌検査を2年に1回行うほか、従来型コンバインよりも100万円高いITコンバインを購入して6年間使用する場合。
 この場合、表1、表3より、1年・作付面積10aあたり土壌分析費用と機械償却費増額の和は、2.5+1.67=4.17(千円)となります。
  肥料(肥培管理)費用の変化も考えられますが、さしあたって大きな変化はないと仮定します。
 すると、上の計算より、ITコンバイン導入で米の販売収入が10aあたり4.17千円以上増えると期待されるならば、費用対効果でITコンバイン導入が見合う可能性が高いと考えられます。
  近年における香川県の米生産での10aあたり販売収入は9万円前後です。それに当てはめると、ITコンバインの導入による収量・食味の改善で少なくとも5%程度の販売収入増加が見込める必要があることになります。
 これは農業者にとってややハードルが高いと感じられるでしょうか。

 検討例2: 作付面積が5ha、水田1枚が平均10aで、その1枚ごとに土壌検査を3年に1回実施するほか、従来型コンバインよりも100万円高いITコンバインを購入し、8年間使用する場合。
 この場合、表1、表3より、1年・作付面積10aあたり土壌分析費用と機械償却費増額の和は、3.33+2.5=5.83(千円)となります。
 上と同様に、 肥料(肥培管理)費用は大きな変化はないと仮定します。
 すると、ITコンバイン導入で米の販売収入が10aあたり5.83千円程度増えると期待されるならば、費用対効果でITコンバイン導入が見合う可能性が高いと考えられます。 
 前述した香川県の米生産10aあたり販売収入に当てはめると、ITコンバインの導入による収量・食味の改善により、販売収入増加が少なくとも6~7%ほど期待される必要があると考えられます。前の例1よりもハードルが若干上がると考えられます。

施設イチゴ栽培での環境モニタリングシステムの導入事例

 私は、2019年から2020年にかけて、香川県内のある施設イチゴ栽培を対象に、環境モニタリングシステムの導入によってそこではどのような効果が得られているかについて、当時研究室所属の4年生、山口遥可さんと共に調査しました。本記事では、その調査結果を要約して説明させていただきます。

 調査対象とするA氏は、香川県東讃岐地区内で施設面積40aほどのイチゴ栽培を手掛けています。A氏は、行政機関の補助を利用して2018年からB社製の環境モニタリングシステムを全ハウスに導入しました。

 A氏は2015年頃に香川県農業改良普及員から、イチゴの平均単収でオランダは日本を大きく上回り、それにはオランダ農業でICT活用が進んでいることが関わることを教えられます。当時、A氏は施設園芸でのICT活用にあまり知識がなく、ハウス内の環境をよく計測していなかったこともあり、自分のイチゴ栽培でのICT活用に興味を持つようになったそうです。
 そして、イチゴ施設栽培で単収を高めるためには、CO2濃度、温度、飽差(注1)などを総合的に管理し、イチゴの光合成に適した栽培環境を作り出すことが必要であることを指導員や専門書から学び、自らもそれを実現しようとします。

 そこでA氏が新たに導入した栽培管理方針の概要は以下のようになります。
 ①(香川県は温暖なこともあり)暖房機を導入せず、谷換気のみでハウス内の温度を管理する。冬場の谷喚気の設定温度は11時から14時半までは26℃に、それ以外の時間は29℃に設定する。春先から秋にかけては外気温が高くなるので、逆にハウス内の設定温度をこれらよりいくらか下げて栽培環境を整える。
 ②ハウスでCO2施用機を使用してCO2濃度を管理する。ハウス内のCO2濃度が大気中のそれ(約400ppm)を切ることが絶対ないように、余裕をもって時間帯ごとにCO2濃度をかなり高めの目標値に維持する。
 ③ハウス内の飽差が急激に変化しないように谷喚気でのハウスの開閉度合いを細かく調整する(注2)。

 A氏は、後述するように2018年にB社製の環境モニタリングシステムを導入してからも上記の管理方針を続けて実行しています。

 環境モニタリングシステムの導入以前は、温度等の変化の現れ方において、A氏のハウス間では細かな違いがあったそうです。この違いを把握するためには、その測定データの履歴が必要になります。
 環境モニタリングシステムを導入する以前、A氏は、CO2濃度や温度などが設定値から乖離しているかを確認するために1日あたり1時間程度の見回りを行っていましたが、今後の経営規模拡大を視野に入れるときその負担をさらに大きく増やすことは避けたかったようです。
 環境モニタリングシステムが未導入のままでは、見回り時間を抑えつつハウスの特徴や差異を把握して栽培管理精密化を進めることは難しくなると考えて、A氏は、2018年にB社製の環境モニタリングシステムの導入を決めます。

環境モニタリングシステムの導入によって得られた効果:

 環境モニタリングシステムの導入以降、A氏は、ハウス内で従来から使用する温度センサの表示温度が、B社製の環境モニタリングシステムが示す温度と2~3℃ずれていることを知ります。これは、従来から使用する温度センサはハウス内の高い位置に設置され、直射日光の影響を受けやすいためであることにA氏は気づきます。A氏は、新たにその乖離分を補正して温度調整を行うことによって、上記の①における温度管理の精度を引き上げることが可能になりました。
 また、導入以降にA氏は、環境モニタリングシステムによるCO2濃度の測定値が、上記の②での設定値を下回っていないかをスマートフォンで随時確認できるようになり、前者が後者を大きく下回っていれば設定濃度を直ちに引き上げることで、②におけるCO2管理の精度を高めることが可能になります。
 この他にも、換気後に飽差が緩やかに変化しているかをスマートフォンで随時確認できるので、A氏は飽差を従来よりも制御しやすくなったそうです。

環境モニタリングシステムによる計測データのスマフォ画面上での表示

 こうして、環境モニタリングシステムの導入以後、A氏にとって、上記の①~③の栽培管理に関する不安が減り、ハウス見回り等の作業時間を削減することも可能になりました。A氏は、こうした効果を高く評価して、自身の環境モニタリングシステムの導入効果に高い満足感を示していました。

(注1)「飽差」は、斉藤(2015)に従うと、飽和水蒸気量と絶対湿度の差であり、「空気中にあとどれくらい水蒸気が入る余地があるか」を意味します。植物が気孔を開いて蒸散やCO2吸収を行うには、飽差が3~6 g/m3である環境が適すると言われています。

(注2)ハウス内での急激な飽差の変化は、結露の発生を通じて作物に病害を引き起こしやすいですが、それを避けるためのハウス換気方法が斉藤(2015)で説明されています。

引用文献:
斉藤(2015)『ハウスの環境制御ガイドブック』農山漁村文化協会.

施設花卉栽培での環境モニタリングシステムの導入事例

 2019年から2020年にかけて私は、香川県内のある施設花卉経営を対象にして環境モニタリングシステムの導入効果について、当時研究室所属の4年生、山口耕生さんと調査しました。本記事では、その調査結果の概要を説明させていただきます。

 調査対象は、香川県東讃地区内に住むC氏の花卉経営です。C氏は切り花を比較的広い面積で生産しており、ハウス・品種ごとに作業進行の行うタイミングや基準など栽培管理方針を細かく定め、それを厳しく守ってきました。以前からのC氏による温度、CO2,飽差の管理方針に関しては、以下の特徴がみられます。

  1. 暖房機と天窓で温度管理する。設定温度は、時期、品種、生育段階ごとに予め細かく決めてある。
  2. ハウスCO2施用機を使用し、そのCO2濃度の設定値は常時400500ppmにする。
  3. 飽差(注1)は、一定の範囲内に厳しくコントロールせずに、たまにその値を確認するにとどめる。

 C氏は、D社の営業担当者から勧められて、2018年にD社製の環境モニタリングシステムを試験的に導入しました。

 環境モニタリングシステムの導入以前、C氏のハウスでは日射の当たり方や、暖房機や天窓の稼働による温度変化の仕方においてハウス間で微妙な差異があったそうです。しかし、C氏にとっては、そうした差異の生じ方を詳しく突き止めることは難しくなっていました。

 また、C氏のハウスでは暖房機、電照器具が故障するときがあり、C氏は故障発生から数時間経ってそれに気づくことが多かったそうです。気づいてから適切に栽培管理の修正対応を進めるためには、故障の発生時点や、発生以降にハウス内の環境が目標からどのようにずれていたか等を知ることが重要になります。環境モニタリングシステムを導入しないままではそれが非常に難しくなっていました。

 D社製の環境モニタリングシステムの場合、ハウス内の環境測定値をEXCELファイルに記録し、その推移グラフを利用者の端末画面に表示することが可能です。システムの導入以降、この機能を使ってC氏は、ハウス、暖房機の機種ごとに、設定温度からの実際の温度のずれ方を把握できるようになり、暖房機の温度設定や天窓のセンサ感度を調整することによって温度管理の精度を引き上げることが可能になったそうです。これより過剰な暖房稼働を避けられるため、C氏は暖房費を抑制することができました。

 この他、導入以降にC氏は、暖房機や電照器具の故障発生時に、温度や光量がいつからどのように目標からずれていたかを把握することが可能になります。故障に気づいてからいかに対処すべきか、例えば栽培を中止すべきか等を判断しやすくなる効果も得られました。

 また、D社製の環境モニタリングシステムではスマートフォン等の端末機器でハウス内の状況を確認できるので、ハウスの見回り頻度を抑えられる効果も得られました。

 こうしてC氏は、前述のハウス管理、器具類の故障時の対応に関する課題の解決がひとまず可能に至ったそうです

 ところで、C氏が栽培を手掛けている切り花品目の市場を見ると、消費者の購買行動上の習慣のために、年間のうち特定の時期に限って急に需要が大きくなる傾向がありました。C氏は、以前から、ハウスごとに栽培環境に応じて電照期間を調整して、この需要ピークの直前に一気に切り花を多く出荷できたらという期待を持っていました。

 D社製の環境モニタリングシステムは「ハウス内環境のデータ分析に最適」等の謳い文句で販売されていました。C氏は、この特徴を活かしながら、開花時期の予測や、開花時期の調整のために再電照の開始時期を何時に設定すべきかを把握するための分析を行えたらと期待していたようです。

 ところが、C氏にとっては、環境モニタリングシステムで作成された栽培履歴データのから必要なデータを抽出し、それを適切に組合わせて栽培学的な検討や解釈を進める手法については不慣れだったようです。C氏はD社製の環境モニタリングシステムの導入後もなお、望んでいた、「開花時期の調整のために再電照の開始時期を何時に設定すべきかを把握するための分析」は行えないままになってしまいました。上記のようなデータ分析を進めるための分析能力が不足する状況に置かれたままになったことがこの大きな要因でした。

 記事「施設イチゴ栽培での環境モニタリングシステムの導入事例では、環境モニタリングシステムを導入してCO2,飽差の管理精密化を、イチゴの光合成促進に活かそうとした農業者の事例を紹介しました。対照的に、C氏には、D社製の環境モニタリングシステムを導入した後でも、そうした意思がなかったそうです

 CO2管理に関しては、CO2施用を積極的に増やすと、切り花の開花が遅くなり、これまで遵守してきた栽培管理のサイクルが崩れて困ると考えられたからだそうです。

 一方、飽差管理に関しては、C氏のハウスは近代的な鉄骨構造を持ち、設定温度の近くで温度を安定させるため天窓を自動で開閉させる機能が備わっていました。飽差調整を精密化させるためには、飽差の緩やかな変化を促すような天窓開閉方法の導入も必要になります。しかし、温度と飽差を同時に理想的な形で調整できるような天窓開閉方法は、一般に非常に見出しにくいですC氏は、温度調整に向けた天窓開閉を優先させ、飽差調整に向けた天窓開閉を放棄することにしたそうです。

 以上の事情により、C氏は、CO2濃度、飽差の管理については、光合成促進にそれらを活かす意思はなく、それらの値がおおよそ想定の範囲内にあるかを環境モニタリングシステムでたまに確認する、という対応にとどまっています。

 D社製の環境モニタリングシステムの導入に関する全体的評価として、C氏は、初めに述べた温度管理の精密化を促す役割を評価して「それを持っていて損ではない」と述べています。しかし、C氏は、上記のように電照管理に関するデータ分析の面では分析能力が不足し、環境モニタリングシステムに備わるCO2濃度、飽差の測定機能を十分に使えない状況に置かれていました。これらについてはC氏も懸念や不満があるようで、D社製の環境モニタリングシステムの導入効果に関する全体的な評価をやや下げているようでした。

 C氏は、こうした状況に懸念を感じており、データ分析能力の強化に向けたサービスや指導を、D社や改良普及・営農指導機関が提供してくれることを望んでいました。

 (注1)「飽差」は、斉藤(2015)に従うと、飽和水蒸気量と絶対湿度の差であり、「空気中にあとどれくらい水蒸気が入る余地があるか」を意味します。植物が気孔を開いて蒸散やCO2吸収を行うには、飽差が3~6 g/m3である環境が適すると言われています。

引用文献:斉藤(2015)『ハウスの環境制御ガイドブック』農山漁村文化協会.

スマート農業の導入・普及に関する農業者のとらえ方(高松市でのアンケート調査結果より)

 本記事では、私の研究室で分析して得られた、高松市におけるスマート農業の導入・普及に関するアンケート調査の結果について説明させていただきます。

第1節 はじめに

 農業技術イノベーションの普及を説明する代表的な理論としては、例えば、E.M. ロジャース『イノベーションの普及』(2003)が挙げられます。この理論に従えば、イノベーションが人々に普及していく過程で、人々はイノベーションに対して以下の段階を経ながら態度を形成するとされます。

①知識:イノベーションの存在に気付く
②説得:そのイノベーションに対する良い印象や悪い印象を抱く
③決定:そのイノベーションを採用するかどうかを決める
④導入:採用を決定した場合に実際に導入して使ってみる
⑤確認:事後的にそのイノベーションを採用して良かったか、採用しないという決定がよかったのかどうかを振り返って確認する。

以上の段階の進行に対しては、採用者がどのような情報源に接しているか、元々どのような革新性を備えているかが大きく影響しやすいことが、前掲のロジャース(2003)によって指摘されています。

私の研究室では、スマート農業に関する高松市内農業者の検討・採用等の態度形成に関して、こうしたイノベーション普及理論を適用して実態把握をする必要があると考えて、その内容を盛り込みつつアンケート調査を実施することにしました

 アンケート調査の進め方としては、高松市内の認定農業者361名を対象とし、201911月にアンケート調査票を郵送し返送してもらいました。農業経営の概況、スマート農業技術の採用経験や認知、その情報源、今後の検討や採用の意向について尋ねています。有効回答は91件(有効回答率25%)でした。

 調査票作成、郵送にご協力いただいた高松市職員の皆様方、また、回答・返送にご協力いただいた市内の農業者の皆様方に感謝いたします。また、当時研究室所属の大学院生であった加藤真也さんには、本調査の実施への参加・協力について感謝します。

 以下では調査結果を簡潔にまとめて述べていきます。

第2節 経営概況について

・まず回答者の年齢分布は高齢層に偏る傾向がみられています(表2-1)。

・回答者の販売額規模は1千万円未満に偏る傾向がみられています(表2-3)。

・回答者にとって「売上が最も多い部門」は米麦作から園芸作に全体的に散らばる傾向がありました(表2-4)

回答者に農業経営における課題を尋ねると、「省力化、軽労化」が最も強く重視され、次に「品質向上」「高付加価値化」「コスト削減」が続きました(図2-1)。

・回答者の間でのインターネット接続率と、スマフォ、パソコン等の端末利用率一般の高齢世帯とほとんど変わらない高さになりました(表2-5、表2-6)。

・スマート農業技術が出回る以前からも、いくつかのICT手法が農業分野で少しずつ普及が進みつつありました。そうした従来からあるICT手法の実施状況について尋ねると、経理情報の管理や、市場情報の収集や、生産計画の作成ではすでにパソコンやインターネットの利用が比較的進んでいる傾向が伺えました(図2-2)。


 
・また、普段から重視している農業技術の情報源について尋ねると、県改良普及センターの指導、JAの営農指導、知人の農業者に最も大きく依存する傾向がみられました(図2-3)。



第3節 耕種農業での栽培管理の精密化に向けた新しい技術の採用

・耕種農業での栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術が多く出回り始めています。本調査では、その主な種類を挙げて、それぞれについて生産者に関心、知識、採用経験の有無を尋ねました。その回答結果を図3-1に示しました。
 水田作では水位計測による水管理(上から1番目)に最も関心が高く、園芸作では環境計測に基づく収量・適期予測(上から2番目,3番目)に最も関心が高いことがわかりました。
 今回の調査で施設園芸を販売額1位の部門に挙げた16経営体のうち、環境計測・環境制御技術を採用済みの経営体は半数を占めていました。このことより、高松市内の施設園芸では既に環境計測または環境制御技術の採用が進みつつあることが伺えました。

 

栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術の情報源について尋ねた結果を、図3-2に示しました。生産者は普段は県改良普及センター、JAの営農指導を重視する傾向が強いことを上で述べましたが(前掲、図2-3を参照)、栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術に関しては、メディア、メーカーが情報源としてより強い役割を果たしていることが伺えました。


・栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術に対する今後の態度・姿勢について尋ねた結果を、図3-3に示します。上から4番目の「関心がある技術について詳しく検討したい」については、回答者の約7割が同意していました。栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術の説明を要望する意向、その特徴や効果を検討する意向が比較的強いことが伺えます。


第4節 農作業の省力化・軽労化に向けた新しい技術の採用

・農作業の省力化・軽労化に向けた新しいスマート農業技術も多く出回っています。その主なものを挙げて、それぞれについて関心、知識、採用経験の有無を尋ねた結果を、図4-1に示しました。
 ドローンを使った薬剤散布を採用している回答者が数名見られますが、それ以外の技術の採用例はほとんどなく、この分野のスマート農業技術はほとんど普及していないことがわかりました。 
 回答者の間で関心が高い技術をみると、ドローンを使うもの(薬剤肥料散布用,生育診断)が1位と3位に挙がり、草刈り・除草用ロボットへの関心が2位に挙がり、水田での自動給水装置への関心が4位に挙がっていました。


農作業の省力化・軽労化に向けた新しいスマート農業技術に関する情報源を尋ねた結果を、図4-2に示します。回答者のおよそ半分がこの情報源としてネット、雑誌等の記事、パンフを挙げています。県やJAからの説明もメーカーからの説明と並んで比較的多く挙がっていました。


・省力化、軽労化に向けたスマート農業技術に対する今後の態度・姿勢について尋ねた結果を、図4-3に示します。早急に導入したい意向は4割ほどにとどまり、「特徴や効果を詳しく検討したい」に同意する人が6割強にのぼっています。省力化、軽労化に向けたスマート農業技術について説明を受けることへの要望も、5割ほどと比較的高くなっていました。


第5節 農作業記録の「見える化」に向けた生産管理システムの採用

・農作業記録の「見える化」に向けた生産管理システムの典型例を挙げて、それぞれについて関心、知識、採用経験の有無について尋ねた結果を、図5-1に示しました。典型例を4つ挙げたのですが、どの技術も採用経験がある回答者は見られませんでした。しかし、作業工程の記録・管理を生産管理用アプリを使って進めたり、それを自動記録したりすることについてはやや関心が高い傾向が伺えました。


農作業記録の「見える化」に向けた生産管理システムに関する情報源を尋ねた結果を、図5-2に示しました。この情報源としては、ネット、雑誌等の記事が大部分を占めていて、県やJAの指導機関、ベンダー企業を情報源とする人は少なくなりました。


・生産管理システムに対する今後の態度について尋ねた結果を、図5-3に示しました。生産管理システムの特徴や効果について指導機関に説明してもらうことを要望する回答、また、生産管理システムを自分の経営改善につなげたいという回答が、全体の5割程度に上っています。ただし、いずれでも、「ややそう思う」が「そう思う」を大きく上回っているので、これらの要望はあまり強くないと考えられます。


生産管理システムに対する否定的な見方の例をいくつか示して、それぞれの賛否について尋ねた結果を、図5-4に示します。生産管理システムで蓄えたデータを経営改善につなげられるかどうかを疑問に感じる意見、また、従来の紙媒体による記録でも支障を感じないという意見に、それぞれ回答者の3割程度が賛同していました。



第6節 人材育成における ICT利用について

・ ICT を活用した人材育成手法として典型的なものを5つ示して、それぞれに関する関心、知識、採用経験の有無について尋ねた結果を、図6-1に示します。①のように端末機器を使って技術やノウハウの記録を取るという手法について採用経験があるという回答が、10件を超えていました。また、この手法に関する関心が最も高い傾向が伺えました。


・上記のようなICT を活用した人材育成手法に関する情報源について尋ねた結果を、図6-2に示します。この情報源としては、インターネット、雑誌等の記事が多くなり、県やJAの指導機関からの説明もやや多くなりました。


・上記のICT を活用した人材育成手法に対する今後の態度について尋ねた結果を、図6-3に示します。ICTを活用した新しい人材育成手法や特徴や効果に関する説明を要望する回答者、また、その特徴や効果について検討する意欲を持つ回答者はそれぞれ4割程度でした。第3~5節で見てきた技術に比べて、ICT を活用した人材育成手法に対する関心は低くなっていると言えます。これには調査対象に家族経営が多く、雇用が少ないことが影響していると考えられます


・ICT を活用した人材育成手法によって得られる効果の印象について尋ねた結果を、図6-4に示します。人材育成上の効果(技能が伝わりやすい、習得期間の短縮)については同意する割合が高いことが確認されています。


第7節 スマート農業の将来像と普及施策について

・スマート農業の将来像について尋ねた結果を、図7-1に示します。農業者の間で技術能力の格差が拡大することを懸念する見解と、農業に魅力を感じる若い人が増えるというプラスの影響に期待する見解(好意的な評価)とが、第1、2位で拮抗するという結果になりました。同時に、スマート農業に対して農業者自身も適応することが必要だという考えも、比較的多く見られました(第3位)。


 ・本調査では、スマート農業に関する施策への賛否についても尋ねています。ここでは、政府によるスマート農業推進を支持するかという点への賛否のほか、高知県のようにセンサ機器で収集したデータを活用した栽培管理指導を進めることへの賛否について尋ねました。高知県の指導システムについては、以下の資料が詳しいです。

安芸農業振興センター「環境制御技術導入による安芸地域の施設園芸の活性化 -ナスでの取組成果を中心として-」

 この資料に掲載されているPDCAサイクルの図を回答者に示しながら、センサ機器でのデータ収集→そのデータの分析→その分析結果に基づく栽培管理指導、という指導システムを香川県でも進めることに賛成するかを尋ねています。以上の二つの賛否に関する回答結果を、図7-2に示しました。この結果より、どちらについても賛成する回答が比較的多いことがわかりました。


・高松市内でもスマート農業技術に関する講習会、マッチングイベントがここ数年開かれてきました。この講習会、マッチングイベントについての不満点を尋ねて得られた結果を、図7-3に示します。イベントの周知・案内が少ないことへの不満、イベントで取り上げられる技術の種類が少ないことへの不満が比較的多く挙がりました。農業者とITベンダー、メーカーとのマッチングがこうした講習会、イベントの開催目標に掲げられていますが、その目標はよく達成されていないことが、開催者側の反省すべき点として浮き彫りなりました。


・今後の講習会(マッチングイベント)に対して要望したい点を挙げてもらった結果を、図7-4に示します。事前案内を強化すること、取り上げる技術の種類と事例紹介を充実させることが、今後の講習会(マッチングイベント)の準備では優先すべき課題になるかと思われます。また、スマート農業に関する入門的説明や、農業者の関心に応じたQ&Aでのガイダンスなども、今後必要な対策になると考えられます。




新規就農者によるスマート農業技術の導入、技能継承の取り組み事例

 香川県内のある農事組合法人では、新規就農者が主体となってスマート農業技術を導入し、技能継承や販路拡大に取り組む事例が見られます。2019年に私は、当時研究室所属の4年生、田中瑠星さんと共にその聞き取り調査を行いました。本記事では、その調査結果の概要を説明させていただきます。

 香川県東讃地区内のある農事組合法人(以下、E法人と呼びます)では、米麦のほか、香川県オリジナルのアスパラガス品種、「さぬきのめざめ」を以前から栽培してきました。県外から移住してきたF氏が、2018年にE法人に参加したのをきっかけに、F氏を中心に「さぬきのめざめ」の生産・販売でのICT活用、具体的には、環境モニタリングシステムとネット販売の利活用が始まりました。
 
 E法人ではそれまで、「さぬきのめざめ」の栽培方法を知る組合員がただ一人で高齢であるにも関わらず、他の組合員にその栽培方法について知識共有がなされていませんでした。その唯一の組合員が行う栽培管理方法が妥当なのかを、他の組合員が推し量ることも知識不足で難しくなっていました。こうした状況に対応して、環境モニタリングシステムから得られる栽培環境データを基に、栽培方法の知識共有化や、栽培管理を精密化させたいため、F氏のイニシアチブにより、2019年にE法人はG社製の環境モニタリングシステムを導入しました。

 E法人の場合、「さぬきのめざめ」栽培での灌水管理の基本方針は、1)春どり期間は畝表面の乾き具合を確かめ、乾いていたら灌水する、2)収穫打ち切り後は乾燥させない程度に定期的に灌水をする、などから成ります。環境モニタリングシステムの導入以降、E法人は、同システムのデジタル Pf 計を通じて土壌水分を監視し、こうした水管理の精度を高めることが可能になりました。同システムの通知機能により、地表面を定期的に確認する手間も減り、作業時間も抑えられました。F氏は、アスパラガス栽培の専門書を精読して理想的な土壌水分・灌水管理を学び、それをデジタル機器活用を通じて実現しようとしています。

E法人のハウス内で設置されるデジタル Pf 計の様子

 E法人では、日中常時ハウス内の温度が30℃を超えるとハウス側面の外張りビニールを開放し、35℃を超えると内張りのビニ―ルを撤去する方針を採ります。また、地温管理に関しては、萌芽開始時点の地温は最低12℃以上、萌芽継続地温は15℃以上、休眠開始時の地温は15度と設定しています。E法人では、環境モニタリングシステムで得た気温データにより、こうした気温に応じたハウス開放が行いやすくなりました。また、同システムで得た地温データとLANカメラからのアスパラガス撮影画像を合わせて用いることにより、萌芽状況と地温の対応をよく確認しつつハウス管理が進められるようになりました。これらによってハウスの開閉回数を抑制でき、ハウス内の保温を進めやすくなるという効果が得られています。

 環境モニタリングシステムを導入したことによるアスパラガスの収量や品質の変化に関して、F氏は、「収量に変化がないが、土壌水分量の管理ができたおかげでアスパラガスの規格品外が減っている」と述べています。

 E法人では、環境モニタリングシステムの導入によって見回りの労働負担が抑制されるようになったことを好機としてとらえ、ハウスを増設して「さぬきのめざめ」の栽培面積を拡大しています。F氏は、他の非農業の仕事にも就き兼業でありながらも、アスパラガス生産の規模拡大を先頭に立って進めています。F氏にとっては、作業時間が抑制されて経営計画についても考える時間的余裕ができたこと、規模拡大をしても栽培管理の精度を維持できて収量、品質を落とさない自信があることが、こうした規模拡大への意欲につながっています。

 F氏は、自身の経験を振り返って、「アスパラ初心者として、栽培マニュアルおよび参考書、栽培環境モニタリング・システムを使うことにより、栽培ノウハウが「見える化」して、技術習得にかかる時間が削減できそうだ」と述べています。E法人では、F氏が加入する以前にアスパラ栽培を担当してきた高齢の農業者からF氏への世代交代が順調に進むという効果が得られました。以上のようなF氏の経験は、他の新規就農者にとっても技能習得のモデルになり得ると考えられます。

 E法人では、F氏が加入する以前までは生産した「さぬきのめざめ」を農協に全量出荷していました。しかし、農協出荷の場合の手数料率が割高に思われ、農協の出荷規格が厳しく思われたことから、F氏は販路開拓に踏み出しました。
 
 そこでF氏が着目したのがネット販売でした。ただし、ネット販売を生産者自らが行うと、ホームページ作成、システム決済等で負担が大きくなります。そこでF氏は、ネット販売の委託先を探すことにして、農産物ネット販売の専門業者と出会います。この専門業者は、香川県内で法人設立され、香川県内外の農業者から農産物販売を受託し、その商品を専門サイト上で詳しく紹介しながら注文を取り付け販売しています。F氏は、その専門業者との交渉・契約を経て、「さぬきのめざめ」を専門サイト上で詳しく紹介してもらい、直売を可能にしました。ここでの商品紹介がすぐに県外の外食業者の目にも触れ、その結果、F氏は「さぬきのめざめ」の契約出荷に成功しています。

 このほか、F氏は、JAでは出荷規格外扱いだった「さぬきのめざめ」を地元の産直市で販売することにも取り組んでいます。産直市へ出荷するとき、販売価格は農協に比べて安くなるものの、農協出荷時よりも販売手数料は低く抑えられるため、F氏にとって、手取り収入の確保という観点では農協出荷に匹敵するメリットが感じられるそうです。 

 一方、ネット販売では梱包費や運送費等の出荷経費を手数料や商品価格にどのように反映させるか(生産者側と消費者側がどう分担するか)も契約の際に当事者間では関心事となり、交渉や合意が求められてきます。F氏としてはそれに伴う負担(経済学で言われる「取引費用」)が増えてくることも感じているそうです。

スマート農業技術に含まれるデータ分析機能 

 農業者がスマート農業技術を使おうとする際に、その機器類から収集されるデータをどう分析して利用したいかが課題になります。そのデータの分析機能をよく理解することが、スマート農業技術の採用効果を高める上で重要になると考えられます。

 ただし、スマート農業技術のデータ分析機能の内容は、専門知識がないと複雑でとらえにくくなってしまうでしょう。そこで、スマート農業技術のデータ分析機能をわかりやすくとらえるようにすることも、スマート農業技術に含まれるデータ分析機能の理解を深める上でとても重要になると考えられます。

 以下の論文、Nolet(2018)は、スマート農業技術の発展がどのように進むかを考察する際に、スマート農業技術に備わるデータ分析機能の整理を行いました。

 Nolet, S. (2018) Seeds of Success: Advancing Digital Agriculture from Point Solutions to Platform, The United States Studies Center at the University of Sidney 

 この論文では、スマート農業技術に備わるデータ分析機能は、以下の四つの段階に分かれて、1から4へと向かって発展することを主張しました

  1. 記述的・診断的分析descriptive/diagnostic analytics):農業生産の履歴データを管理して,過去に何が起こっていたかを把握する分析を意味する。
  2. リアルタイム分析real-time analytics):農業生産で現在何が起こっているかをリアルタイムに把握する分析を意味する。
  3. 予測的分析predictive analytics):農業生産に関する過去や現在のデータを用いて,将来の農業生産に関して予測を行う分析を意味する。
  4. 処方的分析prescriptive analytics):過去や現在の農業生産に関するデータを用いて今後農業者が何をすべきかを示す分析を意味する。
Nolet(2018)の7ページに出てくる図表を、和訳すると以下のようになります。レベルごとにその目的、具体例が示されています。

  
 記述的・診断的分析の段階であれば、機器類からデータは収集されますが、それを使ってどうしたらいいか、今後どうなるかなどを知ることは利用者に任されます。リアルタイム分析の段階に入ると、データを収集しつつ、そのデータの内容が異常事態などに該当していないかなどの検知も機器類によって行われるようになりますので、一歩進んだことになります。さらに、予測的分析の段階に入れば、収集したデータを集計分析するなどして今後何が起こりうるかを知らせてくれる機能も付くことになりますので、もう一歩進んだことになります。最後の処方的分析の段階では、機器サービスから「今後の事態予測を踏まえて何をすべきか」が示されるわけですから、さらにもう一歩進んだことになります。
 
 スマート農業にも課題(ニーズ)に応じて様々な種類があるということは、別の記事「スマート農業技術の分類と選択」で述べています。ここでは特に、スマート農業技術にどのようなデータ分析機能が含まれているかに着目しても、その整理が可能であることを強調したいです。
 
 農業者がスマート農業技術を使おうとする際、多くの場合でその機器類から収集されるデータをどう利用したいかも課題になりますので、まずその技術に備わるデータ分析機能は、上の区分のどれに該当するのかを慎重に見極めておくことが必要になると考えられます。

 Nolet(2018)では、上のデータ分析機能が様々なスマート農業技術にどのように該当するかを詳しく示すことはしていません。私の場合、香川県の施設園芸でのスマート農業技術の普及に関心がありましたので、施設園芸向けのスマート農業技術に上の整理区分がどのように該当するかを確かめたいと思いました。ここでは、農林水産省が示した、国内の施設園芸向けスマート農業技術のカタログ:
に対して、上の整理区分を当てはめてみたいと思います。

このカタログをよく読んでみますと、国内の施設園芸向けスマート農業技術のデータ分析機能が以下のように整理できると考えられます。

①記述的・診断的分析:栽培施設に設置された各種センサから栽培環境のデータを収集した上で、その保存データを端末機器で閲覧して栽培環境の履歴を確認したり、栽培環境が過去に作物生育に与えた影響について簡単な検討を行ったりする。該当例(この分析機能を備えた機器の例)としては、ウォーターセル株式会社の「アグリノート」がある。

②リアルタイム分析:栽培環境の現状を生産者が端末機器で随時確認できる。その計測値が事前に設定した範囲から逸脱したとき、生産者が警報通知を受け取れる場合もある。該当例には、株式会社四国総研の「ハッピィマインダー」がある。

③予測的分析:収集された栽培環境データ、生産管理に関するデータ、作物生育状況のデータ等を統計解析することによって、生産者が収穫適期や収量、秀品率等を予測できる。該当例としては、㈱PSソリューションズの「e-kakashi」がある。

④処方的分析:上と同様のデータ解析や最適化問題の分析によって、栽培管理形態に関する処方(何をすべきか)を導出し、場合によってはその実行を機械使用で自動化する。該当例としては、㈱ルートレック・ネットワークの「ゼロアグリ」がある。

国内で提供される施設園芸向けスマート農業技術の場合、2010年代前半から①、②の分析機能のみを備えた機器の種類が大きく増えて、2010年代後半より③、④の分析機能を備えた機器が少しずつ現れています。一般に、①、②のデータ分析に比べて③、④のデータ分析では、その遂行のために、栽培環境・生産管理に関してより豊富なデータ収集や、より高度なデータ処理能力・統計解析能力が求められてきますから、③、④の分析機能を提供できる機器の開発や普及は、①、②よりも遅れてくるわけです。

施設園芸をおこなう農業者がスマート農業技術を使おうとする際、技術に備わるデータ分析機能が上の区分のどれに該当するのか、その機能を使ってどのようなデータ活用を進めたいかを慎重に見極めておくことをお勧めしたいです。

2020年10月25日日曜日

スマート農業技術の分類と選択

 政府は、「スマート農業」を、先端技術と農業技術を融合させる技術として位置づけています。ここでの先端技術とは、IoT、ロボット、ビッグデータ、AIに代表される技術です。このとらえ方について詳しくは、以下の資料の6ページ目に説明されています。
 
 しかし、これだけではスマート農業の具体イメージがややわかりにくいかと思われます。松下秀介氏「経営情報利活用とICT技術」(農業情報学会編『新スマート農業』農林統計出版、2019年、pp. 212-213に掲載)の説明によると、農業経営でのニーズに応じて、スマート農業の技術は以下の四つのタイプに分類が可能です。

1.「農業経営で省力化、大規模化を進めたい」というニーズに対応した技術
 この例としては、以下が挙げられます。
・モニタリング:センサやカメラによる生産状況の監視
・マッピング:端末画面の地図上で栽培環境や生産状況を表示して生産管理に利用
・クラウドシステム:センサや端末から収集されるデータをクラウド上で管理
・生産管理 IT システム:端末・アプリで比較的容易に生産管理を進められるシステム

2.「農作業の軽労化、快適化を進めたい」というニーズに対応した技術
 この例としては、以下が挙げられます。
・GPSガイダンス:GPS から農機 操作に関して自動的にガイダンスが行われる
・自動走行:農機が自動で動く(GPS、AIを活用)
・収量計測コンバイン:コンバインを走行させると同時に収量を自動計測
・ロボット代替:人力に替わってロボットが農作業

3.「農産物生産の安定化・高品質化を進めたい」というニーズに対応した技術
 この例としては、以下が挙げられます。
・気象予測
・病害虫診断
・生育診断
・センシング
・精密化
これらの導入によって栽培管理の精密化、高位平準化、最適化が期待されます。

4.「農業技術に関する知の継承・保護を進めたい」というニーズに対応した技術
 この例としては、以下が挙げられます。
・匠(たくみ)の技を形式知化(ここで、「形式知化」とは、言葉や構造で説明できるようにすることを意味します)、
・AI(人工知能)による学習支援
これらの導入によって効率的に担い手が育成されることが期待されます。

 さらに技術の細かい種類ごとに、どのような性能があり、農業者のどのようなニーズを満たせるのか、などを知りたい場合は、農林水産省HP内で紹介されている以下のカタログが参考になります。
 
 このカタログをざっと見渡していきますと、この分野にあまり詳しくない人から見たら、スマート農業の関連機材・サービスの種類が見分けられないほど多種多様にあることを思い知らされ、困惑するのではないかと予想されます。

 現時点ではスマート農業についてよく知らないが、将来的に使いこなせるようになれたらという方は、まずスマート農業の特徴や仕組みを広く浅くでもとりあえず勉強しておくべきでしょう。こうした勉強に適したスマート農業入門書とも言えるような書籍も最近出回り始めましたので読むことをお勧めしたいです。ただし、そうした書籍の中には、ITベンダー、メーカーの言い分、宣伝文句をそのまま載せて、農業者が本当に使いこなしやすく感じるかどうか、農業者にとって費用対効果で見合うのかなどを詳しく追究しない記述も散見されますので、読み手としては内容が信じるに値するかについて予断を持たず慎重に判断すべきと思います。
 その後、自分のニーズに合いそうな機材サービスの候補を選び出し、そこからさらに機材サービスの性能や価格を見渡して、自分のニーズに合致しそうか、自分が使いこなせるか、設備導入費、ランニングコストが高くつきすぎないか、などを見極める必要が出てくるかと思います。
 ちなみに、上で挙げた農林水産省HPにあるカタログの説明には、

「※スマート農業技術カタログは、現在開発・販売されているスマート農業技術について、農業現場に広く知っていただくことを目的としたものであり、技術の効果等を農林水産省が確認・認定しているものではありません。各技術の詳細については、各技術の「問合せ先」にお願いします。」

と書いてあります。農林水産省にしてもカタログの内容の妥当性を保証しているわけではなく、農業者に対してその妥当性を能動的に(自ら動いて)判断するように促す立場です。
 こうした事情より、スマート農業について知らない人にとってそれを理解して使いこなせるまでの道のりが長く感じられるかもしれません。この過程を突破することを難しく感じる農業者が多いとすると、農業者の間でのスマート農業に対するイメージ・親近感の改善、スマート農業の普及にも支障をきたす恐れが懸念されてしまいます。
 
 農業者としては自分一人だけでスマート農業技術の導入を進めるのは心配でしょうし、行政の改良普及機関、営農指導員などにも相談するほうが無難かと思います。ただし、その際にも農業者自身で上記のようにある程度勉強して予備知識を蓄えておかないと、スマート農業技術に関する専門的な説明や記述が理解できなくて、指導機関との間でうまく話を進められない恐れが高いと思われます。  

2020年10月24日土曜日

たかまつ農業ICT推進協議会に参加して

 私は、高松市役所から依頼されて、2018年度より「たかまつ農業ICT推進協議会」に加わっています。ICTとは、Information and Communication Technologyの略で、情報通信技術のことです。以下ではまず、「たかまつ農業ICT推進協議会」(以下、「協議会」と言います)について、協議会の規約に従って説明させていただきます。

 まず、協議会の設立目的については、「高松市の農業分野におけるICTの導入・活用を推進し、市内農業者の農業経営環境の向上・発展を図る」ために協議会を設置することが謳われています。

 「協議会」での協議の対象は、主に、1)農業分野におけるICTの推進に関すること、(2)高松市農業ICTシステム導入活用事業に関すること、です。ここで、(2)に出てくる高松市農業ICTシステム導入活用事業とは、市内の農業者が農業経営にICTを導入される際の費用の一部を、市より補助するという事業のことです。

 「協議会」のメンバーは、(1)香川県農業協同組合中央地区営農センターの役職員、(2)香川県東讃農業改良普及センター所長、(3)高松市農林水産課長、(4)学識経験者、(5)その他会長が認める者、で構成されます。私は(4)の枠で委員に就くようにお願いされ、さらに協議会の会長にも就くことになりました。

  高松市はスマートシティ化の推進を大きな目標に掲げていることもあり、その一環として、高松市は、農業でもICT普及、スマート化を期待したい、ということのようです。以下は、高松市のスマートシティ化の推進プランの概要をまとめた市制作の資料です。

高松市「スマートシティたかまつ推進プラン2019-2021」

この市制作資料のページ番号40のところには、以下が述べられています。

「本市では、ICT の導入・活用を促進し、農作業の省力化や高品質化等を図っており、2018 年度からは「高松市農業 ICT システム導入活用事業」を開始し、農業従事者が農作業・経営管理システムや人材育成システム、有害鳥獣捕獲監視システム等を導入する際に必要な経費の一部を補助しています。 また、「たかまつ農業ICT推進協議会」を設立し、農業従事者とICT ベンダー等のマッチ ングを行っており、今後、こうした取組を継続、強化していく必要があります」。

 振り返りますと2018年当時は、「農業」と「ICT」を並べるとお互い異質に見えて、私も協議会の周囲の方々もICTが農業の発展にどう寄与できるかについて手探り状態に感じていました。このため、協議会としては、新しいICTを勉強しつつ、地元農家の方々が受け入れやすいICTの農業への活用の仕方を見つけたい、という姿勢で活動を進めていくことになりました。当時はまだ、「スマート農業」よりも「農業へのICT利活用」といった言葉がより多く使われていた記憶があります。

 この協議会への参加をきっかけに、私はスマート農業関連の解説書や新製品・サービスに興味を持ち出し多く接するようになり、農業とICTの関係も徐々に実感がつかめてくるようになりました。

 農林水産省のHPでは、スマート農業技術の開発事例、採用・普及事例がふんだんに紹介されていますので、それも私には参考になりました。以下は、農林水産省のHPでスマート農業の調査事例や普及施策がまとめてある箇所です。

農林水産省「基本政策:スマート農業」

 世間一般では、ICT、スマート農業技術の発展が日本の農業に与える影響を前向きにとらえる議論がとても多いようです。ただし、手放しで喜んでいいのか、実際はどうなのか、特に地元香川県では、…という疑問も持ち上がってきますので、その点について調べなければと考えるようになりました。特に、私はスマート農業の採用に関する農業者の考え方を調査したいと思うようになりました。

 2018年から私は実際にスマート農業、ICTを農業生産で導入している農業者の方々を対象に訪問調査をおこなったり、また、担い手農業者の方にアンケート調査を実施したりするなどして、この実態把握に取り組みました。

 その調査の内容や結果は、次回以降のブログで書かせていただきます。

 以下の画像は、訪問調査先の農家さんが使用されていた、ハウスの環境モニタリングシステムの機材です。施設園芸では、このような機材を使った環境モニタリングシステムの導入からスマート農業の世界に入っていかれる農業者の方が大変多くなってきています。


卒業生の課題研究「大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」 

 当研究室における 本年3月の 卒業生、中村将之さんは、「 大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」をテーマに卒論研究(課題研究)を進めました。   その卒論研究の要旨 について以下に抜粋して紹介します。    要旨: 近年の日本では農業における若い世代の流入不足と定着率の...