2020年10月29日木曜日

スマート農業技術に含まれるデータ分析機能 

 農業者がスマート農業技術を使おうとする際に、その機器類から収集されるデータをどう分析して利用したいかが課題になります。そのデータの分析機能をよく理解することが、スマート農業技術の採用効果を高める上で重要になると考えられます。

 ただし、スマート農業技術のデータ分析機能の内容は、専門知識がないと複雑でとらえにくくなってしまうでしょう。そこで、スマート農業技術のデータ分析機能をわかりやすくとらえるようにすることも、スマート農業技術に含まれるデータ分析機能の理解を深める上でとても重要になると考えられます。

 以下の論文、Nolet(2018)は、スマート農業技術の発展がどのように進むかを考察する際に、スマート農業技術に備わるデータ分析機能の整理を行いました。

 Nolet, S. (2018) Seeds of Success: Advancing Digital Agriculture from Point Solutions to Platform, The United States Studies Center at the University of Sidney 

 この論文では、スマート農業技術に備わるデータ分析機能は、以下の四つの段階に分かれて、1から4へと向かって発展することを主張しました

  1. 記述的・診断的分析descriptive/diagnostic analytics):農業生産の履歴データを管理して,過去に何が起こっていたかを把握する分析を意味する。
  2. リアルタイム分析real-time analytics):農業生産で現在何が起こっているかをリアルタイムに把握する分析を意味する。
  3. 予測的分析predictive analytics):農業生産に関する過去や現在のデータを用いて,将来の農業生産に関して予測を行う分析を意味する。
  4. 処方的分析prescriptive analytics):過去や現在の農業生産に関するデータを用いて今後農業者が何をすべきかを示す分析を意味する。
Nolet(2018)の7ページに出てくる図表を、和訳すると以下のようになります。レベルごとにその目的、具体例が示されています。

  
 記述的・診断的分析の段階であれば、機器類からデータは収集されますが、それを使ってどうしたらいいか、今後どうなるかなどを知ることは利用者に任されます。リアルタイム分析の段階に入ると、データを収集しつつ、そのデータの内容が異常事態などに該当していないかなどの検知も機器類によって行われるようになりますので、一歩進んだことになります。さらに、予測的分析の段階に入れば、収集したデータを集計分析するなどして今後何が起こりうるかを知らせてくれる機能も付くことになりますので、もう一歩進んだことになります。最後の処方的分析の段階では、機器サービスから「今後の事態予測を踏まえて何をすべきか」が示されるわけですから、さらにもう一歩進んだことになります。
 
 スマート農業にも課題(ニーズ)に応じて様々な種類があるということは、別の記事「スマート農業技術の分類と選択」で述べています。ここでは特に、スマート農業技術にどのようなデータ分析機能が含まれているかに着目しても、その整理が可能であることを強調したいです。
 
 農業者がスマート農業技術を使おうとする際、多くの場合でその機器類から収集されるデータをどう利用したいかも課題になりますので、まずその技術に備わるデータ分析機能は、上の区分のどれに該当するのかを慎重に見極めておくことが必要になると考えられます。

 Nolet(2018)では、上のデータ分析機能が様々なスマート農業技術にどのように該当するかを詳しく示すことはしていません。私の場合、香川県の施設園芸でのスマート農業技術の普及に関心がありましたので、施設園芸向けのスマート農業技術に上の整理区分がどのように該当するかを確かめたいと思いました。ここでは、農林水産省が示した、国内の施設園芸向けスマート農業技術のカタログ:
に対して、上の整理区分を当てはめてみたいと思います。

このカタログをよく読んでみますと、国内の施設園芸向けスマート農業技術のデータ分析機能が以下のように整理できると考えられます。

①記述的・診断的分析:栽培施設に設置された各種センサから栽培環境のデータを収集した上で、その保存データを端末機器で閲覧して栽培環境の履歴を確認したり、栽培環境が過去に作物生育に与えた影響について簡単な検討を行ったりする。該当例(この分析機能を備えた機器の例)としては、ウォーターセル株式会社の「アグリノート」がある。

②リアルタイム分析:栽培環境の現状を生産者が端末機器で随時確認できる。その計測値が事前に設定した範囲から逸脱したとき、生産者が警報通知を受け取れる場合もある。該当例には、株式会社四国総研の「ハッピィマインダー」がある。

③予測的分析:収集された栽培環境データ、生産管理に関するデータ、作物生育状況のデータ等を統計解析することによって、生産者が収穫適期や収量、秀品率等を予測できる。該当例としては、㈱PSソリューションズの「e-kakashi」がある。

④処方的分析:上と同様のデータ解析や最適化問題の分析によって、栽培管理形態に関する処方(何をすべきか)を導出し、場合によってはその実行を機械使用で自動化する。該当例としては、㈱ルートレック・ネットワークの「ゼロアグリ」がある。

国内で提供される施設園芸向けスマート農業技術の場合、2010年代前半から①、②の分析機能のみを備えた機器の種類が大きく増えて、2010年代後半より③、④の分析機能を備えた機器が少しずつ現れています。一般に、①、②のデータ分析に比べて③、④のデータ分析では、その遂行のために、栽培環境・生産管理に関してより豊富なデータ収集や、より高度なデータ処理能力・統計解析能力が求められてきますから、③、④の分析機能を提供できる機器の開発や普及は、①、②よりも遅れてくるわけです。

施設園芸をおこなう農業者がスマート農業技術を使おうとする際、技術に備わるデータ分析機能が上の区分のどれに該当するのか、その機能を使ってどのようなデータ活用を進めたいかを慎重に見極めておくことをお勧めしたいです。

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