農業者がスマート農業技術を使おうとする際に、その機器類から収集されるデータをどう分析して利用したいかが課題になります。そのデータの分析機能をよく理解することが、スマート農業技術の採用効果を高める上で重要になると考えられます。
ただし、スマート農業技術のデータ分析機能の内容は、専門知識がないと複雑でとらえにくくなってしまうでしょう。そこで、スマート農業技術のデータ分析機能をわかりやすくとらえるようにすることも、スマート農業技術に含まれるデータ分析機能の理解を深める上でとても重要になると考えられます。
以下の論文、Nolet(2018)は、スマート農業技術の発展がどのように進むかを考察する際に、スマート農業技術に備わるデータ分析機能の整理を行いました。
この論文では、スマート農業技術に備わるデータ分析機能は、以下の四つの段階に分かれて、1から4へと向かって発展することを主張しました。
- 記述的・診断的分析(descriptive/diagnostic analytics):農業生産の履歴データを管理して,過去に何が起こっていたかを把握する分析を意味する。
- リアルタイム分析(real-time analytics):農業生産で現在何が起こっているかをリアルタイムに把握する分析を意味する。
- 予測的分析(predictive analytics):農業生産に関する過去や現在のデータを用いて,将来の農業生産に関して予測を行う分析を意味する。
- 処方的分析(prescriptive analytics):過去や現在の農業生産に関するデータを用いて今後農業者が何をすべきかを示す分析を意味する。
このカタログをよく読んでみますと、国内の施設園芸向けスマート農業技術のデータ分析機能が以下のように整理できると考えられます。
①記述的・診断的分析:栽培施設に設置された各種センサから栽培環境のデータを収集した上で、その保存データを端末機器で閲覧して栽培環境の履歴を確認したり、栽培環境が過去に作物生育に与えた影響について簡単な検討を行ったりする。該当例(この分析機能を備えた機器の例)としては、ウォーターセル株式会社の「アグリノート」がある。
②リアルタイム分析:栽培環境の現状を生産者が端末機器で随時確認できる。その計測値が事前に設定した範囲から逸脱したとき、生産者が警報通知を受け取れる場合もある。該当例には、株式会社四国総研の「ハッピィマインダー」がある。
③予測的分析:収集された栽培環境データ、生産管理に関するデータ、作物生育状況のデータ等を統計解析することによって、生産者が収穫適期や収量、秀品率等を予測できる。該当例としては、㈱PSソリューションズの「e-kakashi」がある。
④処方的分析:上と同様のデータ解析や最適化問題の分析によって、栽培管理形態に関する処方(何をすべきか)を導出し、場合によってはその実行を機械使用で自動化する。該当例としては、㈱ルートレック・ネットワークの「ゼロアグリ」がある。
国内で提供される施設園芸向けスマート農業技術の場合、2010年代前半から①、②の分析機能のみを備えた機器の種類が大きく増えて、2010年代後半より③、④の分析機能を備えた機器が少しずつ現れています。一般に、①、②のデータ分析に比べて③、④のデータ分析では、その遂行のために、栽培環境・生産管理に関してより豊富なデータ収集や、より高度なデータ処理能力・統計解析能力が求められてきますから、③、④の分析機能を提供できる機器の開発や普及は、①、②よりも遅れてくるわけです。
施設園芸をおこなう農業者がスマート農業技術を使おうとする際、技術に備わるデータ分析機能が上の区分のどれに該当するのか、その機能を使ってどのようなデータ活用を進めたいかを慎重に見極めておくことをお勧めしたいです。
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