2021年1月28日木曜日

学生調査実習②:熟練農業者の技能継承サービス(キーウェアソリューションズ様による)

 1月14日の調査実習での講演内容について本記事②と次の記事③で説明します.

 まず調査実習の前半では、キーウェアソリューションズの久保さん、山根さんから、キーウェアソリューションズが取り組む農業分野のサービスについて説明をいただきました.その内容を要約して述べます.

 近年農業従事者の高齢化、農業後継者の不足から、熟練農業者の技能がどんどん失われそうな状況にあります.熟練農業者の技は言葉で言い表しにくく、どこが作業のポイントなのか農業の初心者からは見えにくくなっていることで、熟練農業者の技能が伝わりにくくなっていると考えられます.その改善に向けて、キーウェアソリューションズでは熟練農業者の技能継承を支援するサービスを展開しているそうです.キーウェアソリューションズのHPにそのサービスの概要が載っています.

 最近でのその具体的な取り組み事例としては以下があります.

 取り組み事例1:VRによるリンゴ剪定技術継承

 青森県弘前市のリンゴ栽培では、高品質のりんごの安定的生産のため、高精度の剪定技術の習得を重視してきました.しかし、剪定を圃場で実際におこなって学習する機会が限られ、また、ベテランの農業者が剪定作業をしている様子が新規就農者にはとらえにくくなるという問題がありました.そこで、キーウェアソリューションズは、リンゴ剪定技術を新規就農者がVR(ヴァーチャルリアリティ)で学習するシステムを構築したとのことです.

 具体的には、リンゴの樹・枝の3Dデータを作成して、そのデータをヘッドマウントディスプレイから視聴できるようにして剪定を学習するというシステムだそうです.これについて以下のような解説記事があります.

青森県「青森りんご剪定技術を「仮想現実の中に」 700万本記憶する手法の確立」https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_event/attach/pdf/dream4-5.pdf

慶応義塾大学社会・地域連携室「VR技術によるりんご剪定学習支援システムによる地域産業の振興と人材育成」

 このVRの学習システムに入った人は、仮想のリンゴ畑を見て回り剪定のシミュレーションを体験できます.VRでリンゴの樹を上から見下ろせる点などが剪定の学習には有用と評価されているそうです.

 取り組み事例2:匠の技伝承システムによるキュウリ栽培技術継承

 佐賀県では最近、トレーニングファームが設置され、研修生が自分でキュウリなどを育てながら2年間で栽培、経営のノウハウを習得するというシステムが導入されています.この紹介記事として以下があります.

マイナビ農業「【佐賀】 農業のイメージが変わる!? 肥沃な土壌&人の温かみが自慢。模擬経営や手厚い補助制度で就農を支援!」2021年1月14日号
https://agri.mynavi.jp/2020_09_30_132699/

この記事の中に、佐賀県トレーニングファームの研修システムについて以下のような説明があります.
研修では、キュウリ栽培の基礎から段取り、栽培中の観察、天候に応じた複合環境制御装置の操作方法などを習得。これまで経験や勘に頼っていた栽培管理をデータ化して適性な対応を行なうことで、収量・売上金額ともに部会の平均値を上回るなど、研修生にとって大きな自信となる結果が得られています。
 こうした研修をおこなうには充実した学びの体制づくりが必要ですが、そこにキーウェアソリューションズが大きく関わっています.トレーニングファームに入った就農希望者は、栽培に関する基本的な考えと手法の理解(マニュアル)を学ぶだけでなく、熟練農業者と比べて自分が状況判断力でどこが劣っているかを厳しくチェックしてもらい、そこをどのように克服するかについても綿密な指導を受けることができます.キーウェアソリューションズでは、熟練農業者が重視する状況判断の対象を抽出する、学習コンテンツ用データを収集・整理する、基本知識テスト・問題解説の教材を作成するといった面で、このトレーニングファームの研修システムを支えているとのことです.

 上記のようにICTを駆使して熟練農業者の技能継承サービスを展開するという考えは、以下の記事や著書でも述べられています.その社会実装でキーウェアソリューションズが活躍されてきたということが今回の講演でよく伺えました.

島津秀雄氏「農業分野におけるICT活用の可能性」『学術の動向』2016年5月号

神成淳司氏「農業ICTの最新動向」『情報処理』58(9),pp. 818-822, 2017年.
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=182917&file_id=1&file_no=1

神成淳司氏『ITと熟練農家の技で稼ぐ AI農業』日経BPP社,2017年.
https://shop.nikkeibp.co.jp/front/commodity/0000/258870/
(ただし、ここでのAIは、Artificial Inteligenceの意味でなく、Agri-Infoscienceの略)

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