この記事では稲作での水田センサ導入の費用対効果の試算例を示します。
・石丸知道氏「水田センサを活用した飽水管理技と水管理の省力化」(南石晃明編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』(養賢堂、2019年、pp. 154-156)
ここでは、飽水管理区(土壌表面の足跡に水が残る程度の水を保つことを目指す水田)で水田センサを用いて水管理したとき、田面下1cmの水位を長期間維持できたことなどが示されています。
他方で、農林水産省による水田センサ導入実証プロジェクトがH27年からH28年にかけて多くの地域を対象に行われていて、その結果をまとめたのが以下です。
農林水産省「水田センサ×技術普及組織による農業ICT導入実証プロジェクト」
このうち香川県の隣県の事例を二つ取り上げて紹介します。
・岡山県での水田センサの利用効果の実証結果が以下に掲載されています。
農林水産省「岡山県:大型稲作経営体における水田センサ活用による水管理の省力効果及び導入課題の検討」
この事例では、「センサからの情報に基づき、必要なときだけ圃場に出向いて水管理を行った」→「圃場に出向く頻度が3~4割減少」→「時間のゆとりができ、作業効率が向上」という効果が得られたことが報告されています。この実証では、水位の計測、データの通知機能のみを備え、自動給水機能は備えていない水田センサが使われました。
・愛媛県今治市で行われた水田センサ導入効果の実証結果が以下で報告されています。
農林水産省「愛媛県:水田センサによる水稲水管理作業の有効性確認と良食味米生産の実証」
これにより得られた成果としては、水田センサを導入した実証農家は、対照群に比べて米の収量が高く、品質が良くなった(476kg/10a、等級1等、タンパク含量6.8%)、ということです。
以上の事例で、水田センサの導入効果は、水管理労働時間の削減と、収量・品質の改善に表れていました。これに基づいて水田センサ導入の費用対効果に関する試算を以下で進めます。
試算の大まかな方針:農業者が水田センサを新たに導入して使用するときの費用増加を算出し、水田センサ導入に伴う労働費の節約額を見積もって、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、水田センサ導入にともなう費用増加全体を回収できるようになるのかを考えます。
①の水田センサの本体価格は1台20千円で、②の水田センサは、1台55千円と仮定します。いずれでも通信費は、アカウント作成費(初期費)が16.5千円必要で、月別の料金は無料であると仮定します(以上の通信費はセンサ利用台数に関係なし)。
・生産者の水稲作付面積は5haと仮定します。
・水田センサは作付面積10aあたり1台設置され、使用年数、償却年数は共に4年と仮定します。
農水省の生産費統計によると、10aあたり水管理労働時間は6.3時間(H22年)でした。上で紹介した事例には3割程度の削減という事例がありましたので、以下では、①のタイプの水田センサ導入で水管理労働が2時間削減されると仮定します。
農業労賃評価は、900円~1200円/時であると仮定します。上記の水管理労働の削減効果を評価すると、1.8~2.4千円/10aとなります。
よって、この場合、水管理の改善→収量・食味の改善によって、米の販売収入増加が少なくとも2.68~3.28千円/10a だけ期待できるならば(5.08千円と、1.8~2.4千円の差額)、水田センサ導入は費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。香川県の10aあたり米販売収入はここ数年9万円ほどです。よってこの販売収入増額分は、香川県の10aあたり米販売収入の3~4%分の増加に相当します。
②の水田センサ採用の費用対効果の試算例:
②の場合、機材価格/4年+通信初期費*10a/(4年*作付面積500a)より算出すると、センサ機材費+使用費は、1年・10aあたり13.83千円です(小数点第3位以下四捨五入)。
②では自動給水機能が付くので、水管理労働の削減効果は①よりも高くなるはずです。以下では、②のセンサ導入で、水管理労働が10aあたり4時間削減されると仮定します。
労賃評価が900円~1200円/時であると、以上の労働時間削減効果は、3.6~4.8千円/10aと評価されます。
以上より、水管理の改善によって米の販売収入増加が少なくとも9.03~10.23千円/10aだけ期待できるならば(13.83千円と、3.6~4.8千円の差額) 、水田センサ導入が費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。前述の香川県の10aあたり米販売収入との比で考えると、その10~12%分の増額に相当します。よって、①のセンサに比べて、投資採算確保のためのハードルはかなり高くなると考えられます。
終わりに:
本記事と同様に、水稲のスマート農業技術の導入効果の試算例を示した記事「ITコンバインの費用対効果の試算例」と、今回の記事をまとめて、改良普及・営農指導機関が検討すべき課題を挙げさせていただきたいと思います。
ITコンバインの使用によって、圃場別の収量や食味等に関するデータが得られ、また、水田センサの使用によって、時期・圃場ごとの水位(水温)のデータが得られます。こうしたデータをどう活用して、肥培管理、水管理の改善効果を高めていくかが、これらの機器の活用では重要な課題になるでしょう。
こうしたデータの活用は従来、農業者にとっては経験が少なく、不慣れになりがちです。得られたデータを農家間や圃場間で比較する、集団で検討するといった取り組みを強化して、データからの農家の学習、気づきを促す体制があってしかるべきと思われます。こうした取り組みを通じて、優れた生産者の栽培技能を他の生産者が参考にしやすくなるでしょう。
先進事例の取り組み状況を紹介するなどしながら、営農指導機関がこうしたデータ検討の場をサポートすることも今後求められてくると思われます。
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