2020年10月29日木曜日

ITコンバインの費用対効果の試算例

 この記事では、ITコンバインの費用対効果の試算例を示させていただきたいと思います。

 稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例
 稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例がいくつも出ています。三つほど挙げます。

 ・森拓也氏・稲毛田優氏「茨城県におけるITコンバインの活用事例」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 131-133)

 ここでは、茨城県つくば市の農業法人の圃場別収量からITコンバインの使用効果を実証しようとしています。農業法人が耕作する圃場別にコシヒカリの収量を、Y社製のITコンバインを導入する前後それぞれで算出します。収量を導入前後で比較すると、圃場別の収量は、もともとあったばらつきが大きく減って、高位平準化されるようになったという結果が述べられています。

 ・石丸知道氏「ITコンバインを活用した圃場別収量マップの作成と収量レベルに対応した増収技術」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 148-151)

 ここでは、福岡県でのITコンバインの実証圃場で採られた収量改善策の例を示しています。ITコンバインの導入に伴う収量増加の効果は、ITコンバインによる収量・食味の診断と、肥培管理の改善をセットで導入することで実現可能になることが指摘されています。

 ・農林水産省による㈱平塚ライスセンター(茨城県八千代町)を対象にした事例
 上の資料の説明を引用します。㈱平塚ライスセンターは、水稲52ha・麦25ha・大豆2haを作付け、従業員は6名(うちパート3名)で、H28年からクボタKSASを導入しました。
 このときKSASの導入により得られた効果は、以下のようになります。
①品種別に色分けしたマップにより作付状況が一目瞭然で確認可能。作業履歴(年内・過去)の振り返りが容易となった。
②収量・水分・タンパク質含有率を圃場毎に数値で確認可能。圃場によって異なる品質を、タンパク質含有率による仕分け乾燥で差別化→ 自信を持って「おいしいお米」をお客様に届けることが可能となった。
③蓄積された過去からの圃場毎の収量推移データから、土壌改良の効果を確認。圃場毎の施肥設計を見直し、収量・食味の改善が可能となった→目標としている収量・食味を達成した圃場増加が増加。平均収量は30kg/10a アップ。

 以下では、こうした事例調査の結果を参考にして、ITコンバインを用いた栽培管理改善に関する費用対効果の試算を進めたいと思います。
 
 試算の大まかな方針
 農業者が「土壌分析をせず従来型コンバインを使い続ける場合」から、「土壌分析による施肥設計と、ITコンバインによる収量・食味診断を活用する場合」へ切り替えるものとします。この移行に伴う費用増加を算出し、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、その費用を回収できるようになるのかを考えます。

 土壌分析の費用について
  JA全農では、肥料設計まで含む土壌分析料金が、1検体あたり約1万円(税込)です。そこで以下では肥料設計まで含む土壌分析料金が、1検体で1万円と仮定します。

①土壌分析の頻度は、毎年から数年おきまで様々に考えられます。
②一般に、水田1枚の面積は様々で、また、作付水田のうち土壌分析の対象となる水田の面積割合も様々です。このため、1回の土壌分析での作付面積1haあたり検体数も変わります。
 
 そこで①、②の条件設定を変えながら、「1年・作付面積10aあたり土壌分析費用」を算出すると、以下のようになります。

表1.1年・作付面積10aあたり土壌分析費用

 従来型コンバインからITコンバインに切り替えることによる機械償却費の変化について:
 次に、従来型コンバインからITコンバインに切り替えることによる機械償却費の増額を、作付面積10aあたりで算出します。
 設定条件:
①単純化のため、ITコンバインの価格が、従来型コンバインよりも50万円高い場合と、100万円高い場合の二通りを考えます。
②償却年数は両タイプのコンバインで共通で、4年、6年、8年の三通りを想定します。
③償却費は定額法で計算します。
④生産者の作付面積は、3haから20haまで5パターンを想定します。
⑤従来型コンバインからITコンバインへの切り替えに伴う10aあたり機械償却費の増額=価格差×10/(償却年数×作付面積a)、が成り立つとします。

 まず①の価格差に応じてケース1、2に分けて、それから②、④の条件を変えて、切り替えに伴う10aあたり機械償却費の増額を求めたのが以下の二つの表です。

 ケース1:ITコンバインの価格が従来型コンバインよりも50万円高い場合


表2.ITコンバイン(価格差50万円)への切替えに伴う10aあたり機械償却費の増額

 
ケース2:ITコンバインの価格が従来型コンバインよりも100万円高い場合

表3.ITコンバイン(価格差100万円)への切替えに伴う10aあたり減価償却費の増額

 
費用対効果の検討例
 農業者の置かれた状況は様々ですが、とりあえず2つの条件を設けて費用対効果の試算を試みます。 

 検討例1: 作付面積が10ha、水田1枚が平均20aで、その1枚ごとに土壌検査を2年に1回行うほか、従来型コンバインよりも100万円高いITコンバインを購入して6年間使用する場合。
 この場合、表1、表3より、1年・作付面積10aあたり土壌分析費用と機械償却費増額の和は、2.5+1.67=4.17(千円)となります。
  肥料(肥培管理)費用の変化も考えられますが、さしあたって大きな変化はないと仮定します。
 すると、上の計算より、ITコンバイン導入で米の販売収入が10aあたり4.17千円以上増えると期待されるならば、費用対効果でITコンバイン導入が見合う可能性が高いと考えられます。
  近年における香川県の米生産での10aあたり販売収入は9万円前後です。それに当てはめると、ITコンバインの導入による収量・食味の改善で少なくとも5%程度の販売収入増加が見込める必要があることになります。
 これは農業者にとってややハードルが高いと感じられるでしょうか。

 検討例2: 作付面積が5ha、水田1枚が平均10aで、その1枚ごとに土壌検査を3年に1回実施するほか、従来型コンバインよりも100万円高いITコンバインを購入し、8年間使用する場合。
 この場合、表1、表3より、1年・作付面積10aあたり土壌分析費用と機械償却費増額の和は、3.33+2.5=5.83(千円)となります。
 上と同様に、 肥料(肥培管理)費用は大きな変化はないと仮定します。
 すると、ITコンバイン導入で米の販売収入が10aあたり5.83千円程度増えると期待されるならば、費用対効果でITコンバイン導入が見合う可能性が高いと考えられます。 
 前述した香川県の米生産10aあたり販売収入に当てはめると、ITコンバインの導入による収量・食味の改善により、販売収入増加が少なくとも6~7%ほど期待される必要があると考えられます。前の例1よりもハードルが若干上がると考えられます。

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