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2020年10月29日木曜日

水田センサの費用対効果の試算例

 この記事では稲作での水田センサ導入の費用対効果の試算例を示します。

 稲作での水田センサの導入効果に関する実証事例
 稲作での水田センサの導入効果に関する実証事例がいくつも挙がっています。以下ではそのうち三つを挙げます.

 ・石丸知道氏「水田センサを活用した飽水管理技と水管理の省力化」(南石晃明編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』(養賢堂、2019年、pp. 154-156)

 ここでは、飽水管理区(土壌表面の足跡に水が残る程度の水を保つことを目指す水田)で水田センサを用いて水管理したとき、田面下1cmの水位を長期間維持できたことなどが示されています。

 他方で、農林水産省による水田センサ導入実証プロジェクトがH27年からH28年にかけて多くの地域を対象に行われていて、その結果をまとめたのが以下です。

 農林水産省「水田センサ×技術普及組織による農業ICT導入実証プロジェクト」

 このうち香川県の隣県の事例を二つ取り上げて紹介します。

 ・岡山県での水田センサの利用効果の実証結果が以下に掲載されています。

 農林水産省「岡山県:大型稲作経営体における水田センサ活用による水管理の省力効果及び導入課題の検討」

 この事例では、「センサからの情報に基づき、必要なときだけ圃場に出向いて水管理を行った」→「圃場に出向く頻度が3~4割減少」→「時間のゆとりができ、作業効率が向上」という効果が得られたことが報告されています。この実証では、水位の計測、データの通知機能のみを備え、自動給水機能は備えていない水田センサが使われました。

 ・愛媛県今治市で行われた水田センサ導入効果の実証結果が以下で報告されています。

 農林水産省「愛媛県:水田センサによる水稲水管理作業の有効性確認と良食味米生産の実証」

 この事例で取り組まれた内容は、行われた順番に、以下の通りです。
①良食味米を生産する農家と水稲生産法人のほ場に水田センサを設置
②普及指導員が端末で水田センサ情報(水位等)確認し、農家に情報提供をおこなう
③それに従って農家、法人がほ場で水管理作業する

 これにより得られた成果としては、水田センサを導入した実証農家は、対照群に比べて米の収量が高く、品質が良くなった(476kg/10a、等級1等、タンパク含量6.8%)、ということです。

 以上の事例で、水田センサの導入効果は、水管理労働時間の削減と、収量・品質の改善に表れていました。これに基づいて水田センサ導入の費用対効果に関する試算を以下で進めます。

 試算の大まかな方針:農業者が水田センサを新たに導入して使用するときの費用増加を算出し、水田センサ導入に伴う労働費の節約額を見積もって、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、水田センサ導入にともなう費用増加全体を回収できるようになるのかを考えます。

 設定条件:
 水田センサの機能としては、以下の2通りを考えます。
①水位計測+水位データの収集・送信+通知のみの場合
②水位計測+水位データの収集・送信+通知+自動給水の場合
・価格・料金の仮定は、最安クラスである、㈱ぶらんこ製センサ「ファーモ」を参考にします。「ファーモ」の紹介は以下のページをご参照ください。

 ①の水田センサの本体価格は1台20千円で、②の水田センサは、1台55千円と仮定します。いずれでも通信費は、アカウント作成費(初期費)が16.5千円必要で、月別の料金は無料であると仮定します(以上の通信費はセンサ利用台数に関係なし)。

・生産者の水稲作付面積は5haと仮定します。

・水田センサは作付面積10aあたり1台設置され、使用年数、償却年数は共に4年と仮定します。

 ①の水田センサ採用の費用対効果の試算例:

 ①の場合、機材価格/4年+通信初期費*10a/(4年*作付面積500a)より算出すると、センサ機材費+使用費は、1年・10aあたり5.08千円です(小数点第3位以下四捨五入)。

 農水省の生産費統計によると、10aあたり水管理労働時間は6.3時間(H22年)でした。上で紹介した事例には3割程度の削減という事例がありましたので、以下では、①のタイプの水田センサ導入で水管理労働が2時間削減されると仮定します。

  農業労賃評価は、900円~1200円/時であると仮定します。上記の水管理労働の削減効果を評価すると、1.8~2.4千円/10aとなります。

 よって、この場合、水管理の改善→収量・食味の改善によって、米の販売収入増加が少なくとも2.68~3.28千円/10a だけ期待できるならば(5.08千円と、1.8~2.4千円の差額)、水田センサ導入は費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。香川県の10aあたり米販売収入はここ数年9万円ほどです。よってこの販売収入増額分は、香川県の10aあたり米販売収入の3~4%分の増加に相当します。

 ②の水田センサ採用の費用対効果の試算例:

 ②の場合、機材価格/4年+通信初期費*10a/(4年*作付面積500a)より算出すると、センサ機材費+使用費は、1年・10aあたり13.83千円です(小数点第3位以下四捨五入)。

 ②では自動給水機能が付くので、水管理労働の削減効果は①よりも高くなるはずです。以下では、②のセンサ導入で、水管理労働が10aあたり4時間削減されると仮定します。

  労賃評価が900円~1200円/時であると、以上の労働時間削減効果は、3.6~4.8千円/10aと評価されます。

 以上より、水管理の改善によって米の販売収入増加が少なくとも9.03~10.23千円/10aだけ期待できるならば(13.83千円と、3.6~4.8千円の差額) 、水田センサ導入が費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。前述の香川県の10aあたり米販売収入との比で考えると、その10~12%分の増額に相当します。よって、①のセンサに比べて、投資採算確保のためのハードルはかなり高くなると考えられます。

 終わりに:

 本記事と同様に、水稲のスマート農業技術の導入効果の試算例を示した記事「ITコンバインの費用対効果の試算例」と、今回の記事をまとめて、改良普及・営農指導機関が検討すべき課題を挙げさせていただきたいと思います。

 ITコンバインの使用によって、圃場別の収量や食味等に関するデータが得られ、また、水田センサの使用によって、時期・圃場ごとの水位(水温)のデータが得られます。こうしたデータをどう活用して、肥培管理、水管理の改善効果を高めていくかが、これらの機器の活用では重要な課題になるでしょう。

 こうしたデータの活用は従来、農業者にとっては経験が少なく、不慣れになりがちです。得られたデータを農家間や圃場間で比較する、集団で検討するといった取り組みを強化して、データからの農家の学習、気づきを促す体制があってしかるべきと思われます。こうした取り組みを通じて、優れた生産者の栽培技能を他の生産者が参考にしやすくなるでしょう。

 先進事例の取り組み状況を紹介するなどしながら、営農指導機関がこうしたデータ検討の場をサポートすることも今後求められてくると思われます。

ITコンバインの費用対効果の試算例

 この記事では、ITコンバインの費用対効果の試算例を示させていただきたいと思います。

 稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例
 稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例がいくつも出ています。三つほど挙げます。

 ・森拓也氏・稲毛田優氏「茨城県におけるITコンバインの活用事例」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 131-133)

 ここでは、茨城県つくば市の農業法人の圃場別収量からITコンバインの使用効果を実証しようとしています。農業法人が耕作する圃場別にコシヒカリの収量を、Y社製のITコンバインを導入する前後それぞれで算出します。収量を導入前後で比較すると、圃場別の収量は、もともとあったばらつきが大きく減って、高位平準化されるようになったという結果が述べられています。

 ・石丸知道氏「ITコンバインを活用した圃場別収量マップの作成と収量レベルに対応した増収技術」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 148-151)

 ここでは、福岡県でのITコンバインの実証圃場で採られた収量改善策の例を示しています。ITコンバインの導入に伴う収量増加の効果は、ITコンバインによる収量・食味の診断と、肥培管理の改善をセットで導入することで実現可能になることが指摘されています。

 ・農林水産省による㈱平塚ライスセンター(茨城県八千代町)を対象にした事例
 上の資料の説明を引用します。㈱平塚ライスセンターは、水稲52ha・麦25ha・大豆2haを作付け、従業員は6名(うちパート3名)で、H28年からクボタKSASを導入しました。
 このときKSASの導入により得られた効果は、以下のようになります。
①品種別に色分けしたマップにより作付状況が一目瞭然で確認可能。作業履歴(年内・過去)の振り返りが容易となった。
②収量・水分・タンパク質含有率を圃場毎に数値で確認可能。圃場によって異なる品質を、タンパク質含有率による仕分け乾燥で差別化→ 自信を持って「おいしいお米」をお客様に届けることが可能となった。
③蓄積された過去からの圃場毎の収量推移データから、土壌改良の効果を確認。圃場毎の施肥設計を見直し、収量・食味の改善が可能となった→目標としている収量・食味を達成した圃場増加が増加。平均収量は30kg/10a アップ。

 以下では、こうした事例調査の結果を参考にして、ITコンバインを用いた栽培管理改善に関する費用対効果の試算を進めたいと思います。
 
 試算の大まかな方針
 農業者が「土壌分析をせず従来型コンバインを使い続ける場合」から、「土壌分析による施肥設計と、ITコンバインによる収量・食味診断を活用する場合」へ切り替えるものとします。この移行に伴う費用増加を算出し、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、その費用を回収できるようになるのかを考えます。

 土壌分析の費用について
  JA全農では、肥料設計まで含む土壌分析料金が、1検体あたり約1万円(税込)です。そこで以下では肥料設計まで含む土壌分析料金が、1検体で1万円と仮定します。

①土壌分析の頻度は、毎年から数年おきまで様々に考えられます。
②一般に、水田1枚の面積は様々で、また、作付水田のうち土壌分析の対象となる水田の面積割合も様々です。このため、1回の土壌分析での作付面積1haあたり検体数も変わります。
 
 そこで①、②の条件設定を変えながら、「1年・作付面積10aあたり土壌分析費用」を算出すると、以下のようになります。

表1.1年・作付面積10aあたり土壌分析費用

 従来型コンバインからITコンバインに切り替えることによる機械償却費の変化について:
 次に、従来型コンバインからITコンバインに切り替えることによる機械償却費の増額を、作付面積10aあたりで算出します。
 設定条件:
①単純化のため、ITコンバインの価格が、従来型コンバインよりも50万円高い場合と、100万円高い場合の二通りを考えます。
②償却年数は両タイプのコンバインで共通で、4年、6年、8年の三通りを想定します。
③償却費は定額法で計算します。
④生産者の作付面積は、3haから20haまで5パターンを想定します。
⑤従来型コンバインからITコンバインへの切り替えに伴う10aあたり機械償却費の増額=価格差×10/(償却年数×作付面積a)、が成り立つとします。

 まず①の価格差に応じてケース1、2に分けて、それから②、④の条件を変えて、切り替えに伴う10aあたり機械償却費の増額を求めたのが以下の二つの表です。

 ケース1:ITコンバインの価格が従来型コンバインよりも50万円高い場合


表2.ITコンバイン(価格差50万円)への切替えに伴う10aあたり機械償却費の増額

 
ケース2:ITコンバインの価格が従来型コンバインよりも100万円高い場合

表3.ITコンバイン(価格差100万円)への切替えに伴う10aあたり減価償却費の増額

 
費用対効果の検討例
 農業者の置かれた状況は様々ですが、とりあえず2つの条件を設けて費用対効果の試算を試みます。 

 検討例1: 作付面積が10ha、水田1枚が平均20aで、その1枚ごとに土壌検査を2年に1回行うほか、従来型コンバインよりも100万円高いITコンバインを購入して6年間使用する場合。
 この場合、表1、表3より、1年・作付面積10aあたり土壌分析費用と機械償却費増額の和は、2.5+1.67=4.17(千円)となります。
  肥料(肥培管理)費用の変化も考えられますが、さしあたって大きな変化はないと仮定します。
 すると、上の計算より、ITコンバイン導入で米の販売収入が10aあたり4.17千円以上増えると期待されるならば、費用対効果でITコンバイン導入が見合う可能性が高いと考えられます。
  近年における香川県の米生産での10aあたり販売収入は9万円前後です。それに当てはめると、ITコンバインの導入による収量・食味の改善で少なくとも5%程度の販売収入増加が見込める必要があることになります。
 これは農業者にとってややハードルが高いと感じられるでしょうか。

 検討例2: 作付面積が5ha、水田1枚が平均10aで、その1枚ごとに土壌検査を3年に1回実施するほか、従来型コンバインよりも100万円高いITコンバインを購入し、8年間使用する場合。
 この場合、表1、表3より、1年・作付面積10aあたり土壌分析費用と機械償却費増額の和は、3.33+2.5=5.83(千円)となります。
 上と同様に、 肥料(肥培管理)費用は大きな変化はないと仮定します。
 すると、ITコンバイン導入で米の販売収入が10aあたり5.83千円程度増えると期待されるならば、費用対効果でITコンバイン導入が見合う可能性が高いと考えられます。 
 前述した香川県の米生産10aあたり販売収入に当てはめると、ITコンバインの導入による収量・食味の改善により、販売収入増加が少なくとも6~7%ほど期待される必要があると考えられます。前の例1よりもハードルが若干上がると考えられます。

卒業生の課題研究「大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」 

 当研究室における 本年3月の 卒業生、中村将之さんは、「 大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」をテーマに卒論研究(課題研究)を進めました。   その卒論研究の要旨 について以下に抜粋して紹介します。    要旨: 近年の日本では農業における若い世代の流入不足と定着率の...