2020年10月29日木曜日
スマート農業を進める際、情報処理のニーズと能力が合っているか?
水田センサの費用対効果の試算例
この記事では稲作での水田センサ導入の費用対効果の試算例を示します。
・石丸知道氏「水田センサを活用した飽水管理技と水管理の省力化」(南石晃明編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』(養賢堂、2019年、pp. 154-156)
ここでは、飽水管理区(土壌表面の足跡に水が残る程度の水を保つことを目指す水田)で水田センサを用いて水管理したとき、田面下1cmの水位を長期間維持できたことなどが示されています。
他方で、農林水産省による水田センサ導入実証プロジェクトがH27年からH28年にかけて多くの地域を対象に行われていて、その結果をまとめたのが以下です。
農林水産省「水田センサ×技術普及組織による農業ICT導入実証プロジェクト」
このうち香川県の隣県の事例を二つ取り上げて紹介します。
・岡山県での水田センサの利用効果の実証結果が以下に掲載されています。
農林水産省「岡山県:大型稲作経営体における水田センサ活用による水管理の省力効果及び導入課題の検討」
この事例では、「センサからの情報に基づき、必要なときだけ圃場に出向いて水管理を行った」→「圃場に出向く頻度が3~4割減少」→「時間のゆとりができ、作業効率が向上」という効果が得られたことが報告されています。この実証では、水位の計測、データの通知機能のみを備え、自動給水機能は備えていない水田センサが使われました。
・愛媛県今治市で行われた水田センサ導入効果の実証結果が以下で報告されています。
農林水産省「愛媛県:水田センサによる水稲水管理作業の有効性確認と良食味米生産の実証」
これにより得られた成果としては、水田センサを導入した実証農家は、対照群に比べて米の収量が高く、品質が良くなった(476kg/10a、等級1等、タンパク含量6.8%)、ということです。
以上の事例で、水田センサの導入効果は、水管理労働時間の削減と、収量・品質の改善に表れていました。これに基づいて水田センサ導入の費用対効果に関する試算を以下で進めます。
試算の大まかな方針:農業者が水田センサを新たに導入して使用するときの費用増加を算出し、水田センサ導入に伴う労働費の節約額を見積もって、収量・品質の改善によって米の販売収入がどれだけ増えれば、水田センサ導入にともなう費用増加全体を回収できるようになるのかを考えます。
①の水田センサの本体価格は1台20千円で、②の水田センサは、1台55千円と仮定します。いずれでも通信費は、アカウント作成費(初期費)が16.5千円必要で、月別の料金は無料であると仮定します(以上の通信費はセンサ利用台数に関係なし)。
・生産者の水稲作付面積は5haと仮定します。
・水田センサは作付面積10aあたり1台設置され、使用年数、償却年数は共に4年と仮定します。
農水省の生産費統計によると、10aあたり水管理労働時間は6.3時間(H22年)でした。上で紹介した事例には3割程度の削減という事例がありましたので、以下では、①のタイプの水田センサ導入で水管理労働が2時間削減されると仮定します。
農業労賃評価は、900円~1200円/時であると仮定します。上記の水管理労働の削減効果を評価すると、1.8~2.4千円/10aとなります。
よって、この場合、水管理の改善→収量・食味の改善によって、米の販売収入増加が少なくとも2.68~3.28千円/10a だけ期待できるならば(5.08千円と、1.8~2.4千円の差額)、水田センサ導入は費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。香川県の10aあたり米販売収入はここ数年9万円ほどです。よってこの販売収入増額分は、香川県の10aあたり米販売収入の3~4%分の増加に相当します。
②の水田センサ採用の費用対効果の試算例:
②の場合、機材価格/4年+通信初期費*10a/(4年*作付面積500a)より算出すると、センサ機材費+使用費は、1年・10aあたり13.83千円です(小数点第3位以下四捨五入)。
②では自動給水機能が付くので、水管理労働の削減効果は①よりも高くなるはずです。以下では、②のセンサ導入で、水管理労働が10aあたり4時間削減されると仮定します。
労賃評価が900円~1200円/時であると、以上の労働時間削減効果は、3.6~4.8千円/10aと評価されます。
以上より、水管理の改善によって米の販売収入増加が少なくとも9.03~10.23千円/10aだけ期待できるならば(13.83千円と、3.6~4.8千円の差額) 、水田センサ導入が費用対効果で見合う可能性が高いと考えられます。前述の香川県の10aあたり米販売収入との比で考えると、その10~12%分の増額に相当します。よって、①のセンサに比べて、投資採算確保のためのハードルはかなり高くなると考えられます。
終わりに:
本記事と同様に、水稲のスマート農業技術の導入効果の試算例を示した記事「ITコンバインの費用対効果の試算例」と、今回の記事をまとめて、改良普及・営農指導機関が検討すべき課題を挙げさせていただきたいと思います。
ITコンバインの使用によって、圃場別の収量や食味等に関するデータが得られ、また、水田センサの使用によって、時期・圃場ごとの水位(水温)のデータが得られます。こうしたデータをどう活用して、肥培管理、水管理の改善効果を高めていくかが、これらの機器の活用では重要な課題になるでしょう。
こうしたデータの活用は従来、農業者にとっては経験が少なく、不慣れになりがちです。得られたデータを農家間や圃場間で比較する、集団で検討するといった取り組みを強化して、データからの農家の学習、気づきを促す体制があってしかるべきと思われます。こうした取り組みを通じて、優れた生産者の栽培技能を他の生産者が参考にしやすくなるでしょう。
先進事例の取り組み状況を紹介するなどしながら、営農指導機関がこうしたデータ検討の場をサポートすることも今後求められてくると思われます。
ITコンバインの費用対効果の試算例
この記事では、ITコンバインの費用対効果の試算例を示させていただきたいと思います。
稲作でのITコンバインの導入効果について実証事例がいくつも出ています。三つほど挙げます。
・森拓也氏・稲毛田優氏「茨城県におけるITコンバインの活用事例」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 131-133)
ここでは、茨城県つくば市の農業法人の圃場別収量からITコンバインの使用効果を実証しようとしています。農業法人が耕作する圃場別にコシヒカリの収量を、Y社製のITコンバインを導入する前後それぞれで算出します。収量を導入前後で比較すると、圃場別の収量は、もともとあったばらつきが大きく減って、高位平準化されるようになったという結果が述べられています。
・石丸知道氏「ITコンバインを活用した圃場別収量マップの作成と収量レベルに対応した増収技術」(南石晃明氏編著『稲作スマート農業の実践と次世代経営の展望』養賢堂、2019年、pp. 148-151)
ここでは、福岡県でのITコンバインの実証圃場で採られた収量改善策の例を示しています。ITコンバインの導入に伴う収量増加の効果は、ITコンバインによる収量・食味の診断と、肥培管理の改善をセットで導入することで実現可能になることが指摘されています。
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表2.ITコンバイン(価格差50万円)への切替えに伴う10aあたり機械償却費の増額 |
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表3.ITコンバイン(価格差100万円)への切替えに伴う10aあたり減価償却費の増額 |
施設イチゴ栽培での環境モニタリングシステムの導入事例
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環境モニタリングシステムによる計測データのスマフォ画面上での表示 |
施設花卉栽培での環境モニタリングシステムの導入事例
2019年から2020年にかけて私は、香川県内のある施設花卉経営を対象にして環境モニタリングシステムの導入効果について、当時研究室所属の4年生、山口耕生さんと調査しました。本記事では、その調査結果の概要を説明させていただきます。
調査対象は、香川県東讃地区内に住むC氏の花卉経営です。C氏は切り花を比較的広い面積で生産しており、ハウス・品種ごとに作業進行の行うタイミングや基準など栽培管理方針を細かく定め、それを厳しく守ってきました。以前からのC氏による温度、CO2,飽差の管理方針に関しては、以下の特徴がみられます。
- 暖房機と天窓で温度管理する。設定温度は、時期、品種、生育段階ごとに予め細かく決めてある。
- ハウスでCO2施用機を使用し、そのCO2濃度の設定値は常時400~500ppmにする。
- 飽差(注1)は、一定の範囲内に厳しくコントロールせずに、たまにその値を確認するにとどめる。
C氏は、D社の営業担当者から勧められて、2018年にD社製の環境モニタリングシステムを試験的に導入しました。
環境モニタリングシステムの導入以前、C氏のハウスでは日射の当たり方や、暖房機や天窓の稼働による温度変化の仕方においてハウス間で微妙な差異があったそうです。しかし、C氏にとっては、そうした差異の生じ方を詳しく突き止めることは難しくなっていました。
また、C氏のハウスでは暖房機、電照器具が故障するときがあり、C氏は故障発生から数時間経ってそれに気づくことが多かったそうです。気づいてから適切に栽培管理の修正対応を進めるためには、故障の発生時点や、発生以降にハウス内の環境が目標からどのようにずれていたか等を知ることが重要になります。環境モニタリングシステムを導入しないままではそれが非常に難しくなっていました。
D社製の環境モニタリングシステムの場合、ハウス内の環境測定値をEXCELファイルに記録し、その推移グラフを利用者の端末画面に表示することが可能です。システムの導入以降、この機能を使ってC氏は、ハウス、暖房機の機種ごとに、設定温度からの実際の温度のずれ方を把握できるようになり、暖房機の温度設定や天窓のセンサ感度を調整することによって温度管理の精度を引き上げることが可能になったそうです。これより過剰な暖房稼働を避けられるため、C氏は暖房費を抑制することができました。
この他、導入以降にC氏は、暖房機や電照器具の故障発生時に、温度や光量がいつからどのように目標からずれていたかを把握することが可能になります。故障に気づいてからいかに対処すべきか、例えば栽培を中止すべきか等を判断しやすくなる効果も得られました。
また、D社製の環境モニタリングシステムではスマートフォン等の端末機器でハウス内の状況を確認できるので、ハウスの見回り頻度を抑えられる効果も得られました。
こうしてC氏は、前述のハウス管理、器具類の故障時の対応に関する課題の解決がひとまず可能に至ったそうです。
ところで、C氏が栽培を手掛けている切り花品目の市場を見ると、消費者の購買行動上の習慣のために、年間のうち特定の時期に限って急に需要が大きくなる傾向がありました。C氏は、以前から、ハウスごとに栽培環境に応じて電照期間を調整して、この需要ピークの直前に一気に切り花を多く出荷できたらという期待を持っていました。
D社製の環境モニタリングシステムは「ハウス内環境のデータ分析に最適」等の謳い文句で販売されていました。C氏は、この特徴を活かしながら、開花時期の予測や、開花時期の調整のために再電照の開始時期を何時に設定すべきかを把握するための分析を行えたらと期待していたようです。
ところが、C氏にとっては、環境モニタリングシステムで作成された栽培履歴データのから必要なデータを抽出し、それを適切に組合わせて栽培学的な検討や解釈を進める手法については不慣れだったようです。C氏はD社製の環境モニタリングシステムの導入後もなお、望んでいた、「開花時期の調整のために再電照の開始時期を何時に設定すべきかを把握するための分析」は行えないままになってしまいました。上記のようなデータ分析を進めるための分析能力が不足する状況に置かれたままになったことがこの大きな要因でした。
記事「施設イチゴ栽培での環境モニタリングシステムの導入事例」では、環境モニタリングシステムを導入してCO2,飽差の管理精密化を、イチゴの光合成促進に活かそうとした農業者の事例を紹介しました。対照的に、C氏には、D社製の環境モニタリングシステムを導入した後でも、そうした意思がなかったそうです。
CO2管理に関しては、CO2施用を積極的に増やすと、切り花の開花が遅くなり、これまで遵守してきた栽培管理のサイクルが崩れて困ると考えられたからだそうです。
一方、飽差管理に関しては、C氏のハウスは近代的な鉄骨構造を持ち、設定温度の近くで温度を安定させるため天窓を自動で開閉させる機能が備わっていました。飽差調整を精密化させるためには、飽差の緩やかな変化を促すような天窓開閉方法の導入も必要になります。しかし、温度と飽差を同時に理想的な形で調整できるような天窓開閉方法は、一般に非常に見出しにくいです。C氏は、温度調整に向けた天窓開閉を優先させ、飽差調整に向けた天窓開閉を放棄することにしたそうです。
以上の事情により、C氏は、CO2濃度、飽差の管理については、光合成促進にそれらを活かす意思はなく、それらの値がおおよそ想定の範囲内にあるかを環境モニタリングシステムでたまに確認する、という対応にとどまっています。
D社製の環境モニタリングシステムの導入に関する全体的評価として、C氏は、初めに述べた温度管理の精密化を促す役割を評価して「それを持っていて損ではない」と述べています。しかし、C氏は、上記のように電照管理に関するデータ分析の面では分析能力が不足し、環境モニタリングシステムに備わるCO2濃度、飽差の測定機能を十分に使えない状況に置かれていました。これらについてはC氏も懸念や不満があるようで、D社製の環境モニタリングシステムの導入効果に関する全体的な評価をやや下げているようでした。
C氏は、こうした状況に懸念を感じており、データ分析能力の強化に向けたサービスや指導を、D社や改良普及・営農指導機関が提供してくれることを望んでいました。
(注1)「飽差」は、斉藤(2015)に従うと、飽和水蒸気量と絶対湿度の差であり、「空気中にあとどれくらい水蒸気が入る余地があるか」を意味します。植物が気孔を開いて蒸散やCO2吸収を行うには、飽差が3~6 g/m3である環境が適すると言われています。
引用文献:斉藤章(2015)『ハウスの環境制御ガイドブック』農山漁村文化協会.
スマート農業の導入・普及に関する農業者のとらえ方(高松市でのアンケート調査結果より)
本記事では、私の研究室で分析して得られた、高松市におけるスマート農業の導入・普及に関するアンケート調査の結果について説明させていただきます。
第1節 はじめに
農業技術イノベーションの普及を説明する代表的な理論としては、例えば、E.M. ロジャース『イノベーションの普及』(2003)が挙げられます。この理論に従えば、イノベーションが人々に普及していく過程で、人々はイノベーションに対して以下の段階を経ながら態度を形成するとされます。
以上の段階の進行に対しては、採用者がどのような情報源に接しているか、元々どのような革新性を備えているかが大きく影響しやすいことが、前掲のロジャース(2003)によって指摘されています。
私の研究室では、スマート農業に関する高松市内農業者の検討・採用等の態度形成に関して、こうしたイノベーション普及理論を適用して実態把握をする必要があると考えて、その内容を盛り込みつつアンケート調査を実施することにしました。
アンケート調査の進め方としては、高松市内の認定農業者361名を対象とし、2019年11月にアンケート調査票を郵送し返送してもらいました。農業経営の概況、スマート農業技術の採用経験や認知、その情報源、今後の検討や採用の意向について尋ねています。有効回答は91件(有効回答率25%)でした。
調査票作成、郵送にご協力いただいた高松市職員の皆様方、また、回答・返送にご協力いただいた市内の農業者の皆様方に感謝いたします。また、当時研究室所属の大学院生であった加藤真也さんには、本調査の実施への参加・協力について感謝します。
以下では調査結果を簡潔にまとめて述べていきます。
第2節 経営概況について
・まず回答者の年齢分布は高齢層に偏る傾向がみられています(表2-1)。
・回答者の販売額規模は1千万円未満に偏る傾向がみられています(表2-3)。
・回答者にとって「売上が最も多い部門」は米麦作から園芸作に全体的に散らばる傾向がありました(表2-4)。
・回答者に農業経営における課題を尋ねると、「省力化、軽労化」が最も強く重視され、次に「品質向上」「高付加価値化」「コスト削減」が続きました(図2-1)。
・回答者の間でのインターネット接続率と、スマフォ、パソコン等の端末利用率は一般の高齢世帯とほとんど変わらない高さになりました(表2-5、表2-6)。
・スマート農業技術が出回る以前からも、いくつかのICT手法が農業分野で少しずつ普及が進みつつありました。そうした従来からあるICT手法の実施状況について尋ねると、経理情報の管理や、市場情報の収集や、生産計画の作成ではすでにパソコンやインターネットの利用が比較的進んでいる傾向が伺えました(図2-2)。
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第3節 耕種農業での栽培管理の精密化に向けた新しい技術の採用
・栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術の情報源について尋ねた結果を、図3-2に示しました。生産者は普段は県改良普及センター、JAの営農指導を重視する傾向が強いことを上で述べましたが(前掲、図2-3を参照)、栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術に関しては、メディア、メーカーが情報源としてより強い役割を果たしていることが伺えました。
・栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術に対する今後の態度・姿勢について尋ねた結果を、図3-3に示します。上から4番目の「関心がある技術について詳しく検討したい」については、回答者の約7割が同意していました。栽培管理の精密化に向けたスマート農業技術の説明を要望する意向、その特徴や効果を検討する意向が比較的強いことが伺えます。
第4節 農作業の省力化・軽労化に向けた新しい技術の採用
ドローンを使った薬剤散布を採用している回答者が数名見られますが、それ以外の技術の採用例はほとんどなく、この分野のスマート農業技術はほとんど普及していないことがわかりました。
・農作業の省力化・軽労化に向けた新しいスマート農業技術に関する情報源を尋ねた結果を、図4-2に示します。回答者のおよそ半分がこの情報源としてネット、雑誌等の記事、パンフを挙げています。県やJAからの説明もメーカーからの説明と並んで比較的多く挙がっていました。
・省力化、軽労化に向けたスマート農業技術に対する今後の態度・姿勢について尋ねた結果を、図4-3に示します。早急に導入したい意向は4割ほどにとどまり、「特徴や効果を詳しく検討したい」に同意する人が6割強にのぼっています。省力化、軽労化に向けたスマート農業技術について説明を受けることへの要望も、5割ほどと比較的高くなっていました。
第5節 農作業記録の「見える化」に向けた生産管理システムの採用
・農作業記録の「見える化」に向けた生産管理システムの典型例を挙げて、それぞれについて関心、知識、採用経験の有無について尋ねた結果を、図5-1に示しました。典型例を4つ挙げたのですが、どの技術も採用経験がある回答者は見られませんでした。しかし、作業工程の記録・管理を生産管理用アプリを使って進めたり、それを自動記録したりすることについてはやや関心が高い傾向が伺えました。
・農作業記録の「見える化」に向けた生産管理システムに関する情報源を尋ねた結果を、図5-2に示しました。この情報源としては、ネット、雑誌等の記事が大部分を占めていて、県やJAの指導機関、ベンダー企業を情報源とする人は少なくなりました。
・生産管理システムに対する今後の態度について尋ねた結果を、図5-3に示しました。生産管理システムの特徴や効果について指導機関に説明してもらうことを要望する回答、また、生産管理システムを自分の経営改善につなげたいという回答が、全体の5割程度に上っています。ただし、いずれでも、「ややそう思う」が「そう思う」を大きく上回っているので、これらの要望はあまり強くないと考えられます。
・生産管理システムに対する否定的な見方の例をいくつか示して、それぞれの賛否について尋ねた結果を、図5-4に示します。生産管理システムで蓄えたデータを経営改善につなげられるかどうかを疑問に感じる意見、また、従来の紙媒体による記録でも支障を感じないという意見に、それぞれ回答者の3割程度が賛同していました。
第6節 人材育成における ICT利用について
・ ICT を活用した人材育成手法として典型的なものを5つ示して、それぞれに関する関心、知識、採用経験の有無について尋ねた結果を、図6-1に示します。①のように端末機器を使って技術やノウハウの記録を取るという手法について採用経験があるという回答が、10件を超えていました。また、この手法に関する関心が最も高い傾向が伺えました。
・上記のようなICT を活用した人材育成手法に関する情報源について尋ねた結果を、図6-2に示します。この情報源としては、インターネット、雑誌等の記事が多くなり、県やJAの指導機関からの説明もやや多くなりました。
・上記のICT を活用した人材育成手法に対する今後の態度について尋ねた結果を、図6-3に示します。ICTを活用した新しい人材育成手法や特徴や効果に関する説明を要望する回答者、また、その特徴や効果について検討する意欲を持つ回答者はそれぞれ4割程度でした。第3~5節で見てきた技術に比べて、ICT を活用した人材育成手法に対する関心は低くなっていると言えます。これには調査対象に家族経営が多く、雇用が少ないことが影響していると考えられます。
・ICT を活用した人材育成手法によって得られる効果の印象について尋ねた結果を、図6-4に示します。人材育成上の効果(技能が伝わりやすい、習得期間の短縮)については同意する割合が高いことが確認されています。
・スマート農業の将来像について尋ねた結果を、図7-1に示します。農業者の間で技術能力の格差が拡大することを懸念する見解と、農業に魅力を感じる若い人が増えるというプラスの影響に期待する見解(好意的な評価)とが、第1、2位で拮抗するという結果になりました。同時に、スマート農業に対して農業者自身も適応することが必要だという考えも、比較的多く見られました(第3位)。
・本調査では、スマート農業に関する施策への賛否についても尋ねています。ここでは、政府によるスマート農業推進を支持するかという点への賛否のほか、高知県のようにセンサ機器で収集したデータを活用した栽培管理指導を進めることへの賛否について尋ねました。高知県の指導システムについては、以下の資料が詳しいです。
安芸農業振興センター「環境制御技術導入による安芸地域の施設園芸の活性化 -ナスでの取組成果を中心として-」
この資料に掲載されているPDCAサイクルの図を回答者に示しながら、センサ機器でのデータ収集→そのデータの分析→その分析結果に基づく栽培管理指導、という指導システムを香川県でも進めることに賛成するかを尋ねています。以上の二つの賛否に関する回答結果を、図7-2に示しました。この結果より、どちらについても賛成する回答が比較的多いことがわかりました。
・高松市内でもスマート農業技術に関する講習会、マッチングイベントがここ数年開かれてきました。この講習会、マッチングイベントについての不満点を尋ねて得られた結果を、図7-3に示します。イベントの周知・案内が少ないことへの不満、イベントで取り上げられる技術の種類が少ないことへの不満が比較的多く挙がりました。農業者とITベンダー、メーカーとのマッチングがこうした講習会、イベントの開催目標に掲げられていますが、その目標はよく達成されていないことが、開催者側の反省すべき点として浮き彫りなりました。
・今後の講習会(マッチングイベント)に対して要望したい点を挙げてもらった結果を、図7-4に示します。事前案内を強化すること、取り上げる技術の種類と事例紹介を充実させることが、今後の講習会(マッチングイベント)の準備では優先すべき課題になるかと思われます。また、スマート農業に関する入門的説明や、農業者の関心に応じたQ&Aでのガイダンスなども、今後必要な対策になると考えられます。
新規就農者によるスマート農業技術の導入、技能継承の取り組み事例
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E法人のハウス内で設置されるデジタル Pf 計の様子 |
スマート農業技術に含まれるデータ分析機能
農業者がスマート農業技術を使おうとする際に、その機器類から収集されるデータをどう分析して利用したいかが課題になります。そのデータの分析機能をよく理解することが、スマート農業技術の採用効果を高める上で重要になると考えられます。
ただし、スマート農業技術のデータ分析機能の内容は、専門知識がないと複雑でとらえにくくなってしまうでしょう。そこで、スマート農業技術のデータ分析機能をわかりやすくとらえるようにすることも、スマート農業技術に含まれるデータ分析機能の理解を深める上でとても重要になると考えられます。
以下の論文、Nolet(2018)は、スマート農業技術の発展がどのように進むかを考察する際に、スマート農業技術に備わるデータ分析機能の整理を行いました。
この論文では、スマート農業技術に備わるデータ分析機能は、以下の四つの段階に分かれて、1から4へと向かって発展することを主張しました。
- 記述的・診断的分析(descriptive/diagnostic analytics):農業生産の履歴データを管理して,過去に何が起こっていたかを把握する分析を意味する。
- リアルタイム分析(real-time analytics):農業生産で現在何が起こっているかをリアルタイムに把握する分析を意味する。
- 予測的分析(predictive analytics):農業生産に関する過去や現在のデータを用いて,将来の農業生産に関して予測を行う分析を意味する。
- 処方的分析(prescriptive analytics):過去や現在の農業生産に関するデータを用いて今後農業者が何をすべきかを示す分析を意味する。
このカタログをよく読んでみますと、国内の施設園芸向けスマート農業技術のデータ分析機能が以下のように整理できると考えられます。
①記述的・診断的分析:栽培施設に設置された各種センサから栽培環境のデータを収集した上で、その保存データを端末機器で閲覧して栽培環境の履歴を確認したり、栽培環境が過去に作物生育に与えた影響について簡単な検討を行ったりする。該当例(この分析機能を備えた機器の例)としては、ウォーターセル株式会社の「アグリノート」がある。
②リアルタイム分析:栽培環境の現状を生産者が端末機器で随時確認できる。その計測値が事前に設定した範囲から逸脱したとき、生産者が警報通知を受け取れる場合もある。該当例には、株式会社四国総研の「ハッピィマインダー」がある。
③予測的分析:収集された栽培環境データ、生産管理に関するデータ、作物生育状況のデータ等を統計解析することによって、生産者が収穫適期や収量、秀品率等を予測できる。該当例としては、㈱PSソリューションズの「e-kakashi」がある。
④処方的分析:上と同様のデータ解析や最適化問題の分析によって、栽培管理形態に関する処方(何をすべきか)を導出し、場合によってはその実行を機械使用で自動化する。該当例としては、㈱ルートレック・ネットワークの「ゼロアグリ」がある。
国内で提供される施設園芸向けスマート農業技術の場合、2010年代前半から①、②の分析機能のみを備えた機器の種類が大きく増えて、2010年代後半より③、④の分析機能を備えた機器が少しずつ現れています。一般に、①、②のデータ分析に比べて③、④のデータ分析では、その遂行のために、栽培環境・生産管理に関してより豊富なデータ収集や、より高度なデータ処理能力・統計解析能力が求められてきますから、③、④の分析機能を提供できる機器の開発や普及は、①、②よりも遅れてくるわけです。
施設園芸をおこなう農業者がスマート農業技術を使おうとする際、技術に備わるデータ分析機能が上の区分のどれに該当するのか、その機能を使ってどのようなデータ活用を進めたいかを慎重に見極めておくことをお勧めしたいです。
2020年10月25日日曜日
スマート農業技術の分類と選択
その後、自分のニーズに合いそうな機材サービスの候補を選び出し、そこからさらに機材サービスの性能や価格を見渡して、自分のニーズに合致しそうか、自分が使いこなせるか、設備導入費、ランニングコストが高くつきすぎないか、などを見極める必要が出てくるかと思います。
ちなみに、上で挙げた農林水産省HPにあるカタログの説明には、
「※スマート農業技術カタログは、現在開発・販売されているスマート農業技術について、農業現場に広く知っていただくことを目的としたものであり、技術の効果等を農林水産省が確認・認定しているものではありません。各技術の詳細については、各技術の「問合せ先」にお願いします。」
と書いてあります。農林水産省にしてもカタログの内容の妥当性を保証しているわけではなく、農業者に対してその妥当性を能動的に(自ら動いて)判断するように促す立場です。
こうした事情より、スマート農業について知らない人にとってそれを理解して使いこなせるまでの道のりが長く感じられるかもしれません。この過程を突破することを難しく感じる農業者が多いとすると、農業者の間でのスマート農業に対するイメージ・親近感の改善、スマート農業の普及にも支障をきたす恐れが懸念されてしまいます。
農業者としては自分一人だけでスマート農業技術の導入を進めるのは心配でしょうし、行政の改良普及機関、営農指導員などにも相談するほうが無難かと思います。ただし、その際にも農業者自身で上記のようにある程度勉強して予備知識を蓄えておかないと、スマート農業技術に関する専門的な説明や記述が理解できなくて、指導機関との間でうまく話を進められない恐れが高いと思われます。
2020年10月24日土曜日
たかまつ農業ICT推進協議会に参加して
まず、協議会の設立目的については、「高松市の農業分野におけるICTの導入・活用を推進し、市内農業者の農業経営環境の向上・発展を図る」ために協議会を設置することが謳われています。
「協議会」での協議の対象は、主に、(1)農業分野におけるICTの推進に関すること、(2)高松市農業ICTシステム導入活用事業に関すること、です。ここで、(2)に出てくる高松市農業ICTシステム導入活用事業とは、市内の農業者が農業経営にICTを導入される際の費用の一部を、市より補助するという事業のことです。
「協議会」のメンバーは、(1)香川県農業協同組合中央地区営農センターの役職員、(2)香川県東讃農業改良普及センター所長、(3)高松市農林水産課長、(4)学識経験者、(5)その他会長が認める者、で構成されます。私は(4)の枠で委員に就くようにお願いされ、さらに協議会の会長にも就くことになりました。
高松市はスマートシティ化の推進を大きな目標に掲げていることもあり、その一環として、高松市は、農業でもICT普及、スマート化を期待したい、ということのようです。以下は、高松市のスマートシティ化の推進プランの概要をまとめた市制作の資料です。
高松市「スマートシティたかまつ推進プラン2019-2021」
この市制作資料のページ番号40のところには、以下が述べられています。
「本市では、ICT の導入・活用を促進し、農作業の省力化や高品質化等を図っており、2018 年度からは「高松市農業 ICT システム導入活用事業」を開始し、農業従事者が農作業・経営管理システムや人材育成システム、有害鳥獣捕獲監視システム等を導入する際に必要な経費の一部を補助しています。 また、「たかまつ農業ICT推進協議会」を設立し、農業従事者とICT ベンダー等のマッチ ングを行っており、今後、こうした取組を継続、強化していく必要があります」。
振り返りますと2018年当時は、「農業」と「ICT」を並べるとお互い異質に見えて、私も協議会の周囲の方々もICTが農業の発展にどう寄与できるかについて手探り状態に感じていました。このため、協議会としては、新しいICTを勉強しつつ、地元農家の方々が受け入れやすいICTの農業への活用の仕方を見つけたい、という姿勢で活動を進めていくことになりました。当時はまだ、「スマート農業」よりも「農業へのICT利活用」といった言葉がより多く使われていた記憶があります。
この協議会への参加をきっかけに、私はスマート農業関連の解説書や新製品・サービスに興味を持ち出し多く接するようになり、農業とICTの関係も徐々に実感がつかめてくるようになりました。
農林水産省のHPでは、スマート農業技術の開発事例、採用・普及事例がふんだんに紹介されていますので、それも私には参考になりました。以下は、農林水産省のHPでスマート農業の調査事例や普及施策がまとめてある箇所です。
農林水産省「基本政策:スマート農業」
世間一般では、ICT、スマート農業技術の発展が日本の農業に与える影響を前向きにとらえる議論がとても多いようです。ただし、手放しで喜んでいいのか、実際はどうなのか、特に地元香川県では、…という疑問も持ち上がってきますので、その点について調べなければと考えるようになりました。特に、私はスマート農業の採用に関する農業者の考え方を調査したいと思うようになりました。
2018年から私は実際にスマート農業、ICTを農業生産で導入している農業者の方々を対象に訪問調査をおこなったり、また、担い手農業者の方にアンケート調査を実施したりするなどして、この実態把握に取り組みました。
その調査の内容や結果は、次回以降のブログで書かせていただきます。
以下の画像は、訪問調査先の農家さんが使用されていた、ハウスの環境モニタリングシステムの機材です。施設園芸では、このような機材を使った環境モニタリングシステムの導入からスマート農業の世界に入っていかれる農業者の方が大変多くなってきています。
卒業生の課題研究「大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」
当研究室における 本年3月の 卒業生、中村将之さんは、「 大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」をテーマに卒論研究(課題研究)を進めました。 その卒論研究の要旨 について以下に抜粋して紹介します。 要旨: 近年の日本では農業における若い世代の流入不足と定着率の...
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このブログでも以前から紹介していますが、農作業を自動化(自働化)させることを謳い文句にしたスマート農業技術が近年多く現れるようになりました。 農業に限らず、作業の自動化にともなって人間にどのような影響が及ぶか、人間にどのような対処が求められるか、人間とコンピュータの協働はいかにあ...
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1月14日の調査実習での講演内容について本記事②と次の記事③で説明します. まず調査実習の前半では、キーウェアソリューションズの久保さん、山根さんから、キーウェアソリューションズが取り組む農業分野のサービスについて説明をいただきました.その内容を要約して述べます. 近年農業...
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