記事「Farmers Business Network⑥」からの続きです.
FBNの事業内容を参考にして日本で農業データアナリティクス事業をいかに進められるかを考えます.
日本の農家の間でも生産管理上のデータを収集・送信・管理するための機器類・アプリの導入がすでに始まっていますが、FBNのように様々なデータを統合・蓄積できる段階には至っていません.記事③で述べるような「データの統合・蓄積」は日本では遅れていることがすでに多くの論者から指摘されています.そこに危機感がもたれて、2019年にWAGRI(農業データ連携基盤)が立ち上げられました.WAGRIの設立意図については、そのHPに明確に述べられています.
「農業のICT化が進む中で、海外、国内も含めICTベンダーや農機メーカー等から多様なシステムが開発されています.全体では環境データや作物情報、生産計画・管理、技術ノウハウ、各種統計等、幅広い農業データがありますが、システム間の相互連携がほとんどなく、形式の違うデータが個々に存在している状態です.そのため、統一性を図り、データを生きた情報として活用できるようにすることが期待されています」
出所:[16] WAGRI「WAGRIとは」https://wagri.net/ja-jp/aboutwagri
この意図が叶って、「データの統合・蓄積」が日本でも十分に進んで農業データが豊富に集まっているとすれば、現在の日本のICTを駆使して「価格.com」の農業版のような形で、記事④、⑤で取り上げた資材の選択支援、資材購買は行えるでしょう.日本でのネックはやはり「データの統合・蓄積」ではないかと考えられます.
FBNのように「農民第一主義」でWAGRIが設立されていれば、日本の農民の間でのWAGRIの印象もだいぶ変わったかもしれませんが、WAGRIの協議会メンバーはICTベンダー、企業が非常に多いですから、農民第一主義の理念が掲げられることはありませんでした.WAGRIの将来的なビジョン、効果もほとんど見通せない状況で、WAGRIに対する期待も日本の農民の間では依然としてほとんど高まっていません.
そもそも日本はスマート農業の発展の梃を企業に委ねる方針を採ってきましたので、WAGRIのようなデータ連携活用に向けた団体を作ろうにも必ず企業の利害を組み込まざるを得ません.政府は2010年前後から農業への企業参入、農業と異業種の融合を積極的に進めてきましたが、農業のICT普及、スマート化では思わぬところに陥穽があったと言えます.
こうような経緯を考えると、FBNの日本支社を作ってもらって、そこに「データの統合・蓄積」をお任せしたほうが、データ活用の観点からまだましではないかと私には思えてきます.FBNには米国だけでなく、カナダ、オーストラリアの農民も参加しています.これらの国とは日本は農業技術体系も大きく異なるので、すぐにFBNの様々なデータアナリティクス事業が日本に適用できるとは期待できません.しかし、GAFAがあっさり日本へ進出して成功を収め、日本人にそれなりに恩恵が感じられていることを考えると、FBNの日本進出もあっておかしくはないように私には思えます.FBNの趣旨を日本国内で広く説明したら、日本でのFBNの事業展開に参加して日本の農業を変えたいと考える若者も多く現れるのではないでしょうか.彼らがFBNの日本版システムを数年かけて作れてしまうのではないかと期待したくなります.
日本でFBNに近い事業を行うにも、設立主体、その理念について、農民の立場に十分寄り添えるのかどうかが重要な条件になってくるように私には思えてなりません.そこを見落としてWAGRIに期待するにも限界があるのではないかというのが私の見立てです.
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