これまでの記事では、種子、その他の栽培条件が収量や収支に与える影響、経営改善の手段に関する農民の判断に資するようなデータアナリティクス・サービスがFBNによっていかに提供されているかを述べました.これ以外に、収量の決まり方を予測する分析サービスや、収量改善に向けた栽培管理手段を農民に勧めるレコメンデーションサービスも行うことがFBNにとって考えられますが、FBNは設立当初にこうしたサービスを行わない方針を採りました.
この理由の第一は、様々な栽培環境にも適用できるような汎用的な収量予測モデルが存在しないので、FBNが収量予測サービスや栽培管理のレコメンデーションサービスを提供するにしても、農民の不満が必ず出てしまうことでした.第二に、もしも農民の不満がなるべく出にくいような精度の高い予測サービス、レコメンデーションサービスを行おうとすれば、FBN側のスタッフや設備で多大な負担が要り、農民に相当高額の加入料を求めなければならなくなります.その結果、FBNに参加する農民の数が限られ、これまでの記事で述べたような膨大な農業データに依拠したデータアナリティクスのサービス事業を成立させることが困難になると考えられます.
資料[5]によると、2016年当時、FBNは事業展開に関する課題として以下を挙げていました.
1) 季節性:農繁期に農民がFBNによるデータアナリティクスのサービスを利用しにくくなるので、FBNが効果を発揮にしにくくなります.
2) FBNのチームに参加する人材の確保:FBNが求める人材としては、企業家的で、技術に精通している、FBNのミッションを伝えられるなど、条件が厳しくなってしまいます.
3) FBNへの参加料金額は経営規模によらない一律でいいのか:面積が広い農民であれば少しの知識、情報でも莫大な利益を得られますから、彼らに課す料金を高めてもいいようにも思えます.しかし料金引き上げは「農民第一主義」に反し、FBNの評判を傷つけるかもしれません.
4) FBNは農民にアドバイスすべきか、それとも情報提供にとどまるべきか.FBNは農民に奉仕できる経路をいくつも持ちます.具体的には、データサイエンティスト、コンサルタント、仲介業者、金融業者、交渉家などの役割を備えますが、様々な役割をどう折り合いをつけるのかが問題になります.
これまでのFBNに関する記述内容を全体的に振り返りますと、FBNは米国農業の問題点を鋭く突いて、高邁な理念を掲げてからユニークな事業を展開していることがわかります.農民第一主義の使命を果たすためにいかにあるべきかを根底に据えて事業に取り組むことから、FBNは今後も発展することが期待されるのではないでしょうか.
以上でFBNの紹介を終わります.
FBNが日本の農業データ活用、スマート農業にどのような示唆を与えるのかについて、次の記事⑦で簡単に考察したいと思います.
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