2020年12月31日木曜日

Farmers Business Network⑤:資材購買、融資、生産動向分析

記事「Farmers Business Network④」からの続きです.

資料[5]に依拠して、FBNのその他の事業について説明します.

[5] Cole, Shawn, and Tony L. He. "Farmers Business Network: Putting Farmers First." Harvard Business School Case 217-025, September 2016. (Revised August 2018.)

前の記事④で述べましたように、FBNに参加する農民は、種子や資材の実際の価値がどれほどかについて、また、種子・資材価格の差異、分布状況について知ることが可能になります.農民はこれらに基づいて資材調達の交渉を行えます.また、異なる種類の種子、資材を比較して収益改善につながるような種子、資材を選ぶことが可能になります.その購入の際に、種子、農薬をFBN経由で購入できるようにするサービスが、FBNでは提供されています.
FBNのホームページでの資材購入画面は以下です.
[12] Farmers Business Network「Buy Inputs: Chemicals」

FBN経由での資材購入の手続きは、農薬の場合、以下のようになります.
1)FBNに参加している農民が、自分が必要とする農薬の種類をFBNに知らせる.
2)FBNのスタッフが、農薬の販売店と提携して価格帯を分析し、最安値の製品を見つける.
3)農民の農場へ直接にその農薬を届ける.

ここではFBNは「fast,  simple, and hassle free(速く、シンプルに、手間がかからない)」を掲げて、農民を面倒で苦痛な交渉から解放するとしています.FBNが取引ごとに徴収するマージンは少ないので、上記のようにして農薬を安値で市場で調達できたとき、農薬購入費の節約分のほとんどが農民に還元されるそうです

FBNは、農民が一般の販売店から購入した農薬の価格データを収集して、その価格帯のデータを農民提供します.農民は農薬の市場価格とFBN経由で購入した場合の農薬価格とを比較した上で、農薬を購入できるようになります.農民にとっては、FBNが提示する農薬価格よりも割高で不利な価格で一般の販売店から農薬を購入することは避けられます.農民は、一般の販売店に対しても、FBN経由で購入する場合の価格を示して、もっと値下げするようにと交渉することも可能です.FBNが提示する農薬価格は、農民が一般販売店を相手に農薬価格を交渉する際のボトムラインとして機能し、農民が不利な農薬購入取引を迫られる可能性を大きく減らせます.この点でも、FBNでは資材価格の透明性確保が図られていると言えます.

2016年1月にFBNがこの購買事業を開始すると8週間で600万-700万ドルの購買があり、2016年の一年間で2500万ドルの購買に達する見込みとなりました.資材費の節約が顕著なので、会員農民からの支持が高いそうです.

あと二つだけFBNの事業を紹介したいと思います.

FBNは農民へのファイナンス事業を行っていますが、これは農民に融資をおこなう投資家を紹介するという仲介の形をとります.融資の金利は競争的水準に抑えて 過度に高い金利をとることはしないようにします.FBNのホームページでの融資事業の説明画面は以下です.
[13] Farmers Business Network「Financing」

また、FBNは、端末のショートメッセージサービス(SMS)を使って農民に頻繁にアンケート調査を行い、作付け進行、病害の恐れ等を尋ねています.その回答結果はFBNが集計して、農民に直近の生産・栽培動向について情報提供します.従来、農民が、こうした直近の生産・栽培動向を知ろうとすると、ほとんど近隣の知り合いの農民から情報を受けるしかありませんでしたが、上記のFBNのサービスによって、広域に散らばる多数の会員農民から生産情報を提供してもらい、自分にとってよく知らなかった、真新しく思える情報に触れることも期待できます.農民にとってこのサービスも喜ばれているそうです.

以上でFBNのデータアナリティクス事業の説明は終わります.次の記事⑥で、FBNにとっての課題を、その次の記事⑦で日本にとっての示唆を述べたいと思います.

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