2020年12月31日木曜日

Farmers Business Network④:資材(主に種子)選択の支援

「Farmers Business Network③」からの続きです.
資料[5]に依拠して、FBNのデータアナリティクス事業のうち、資材(主に種子)の選択を支援するサービスの内容について説明します.

[5] Cole, Shawn, and Tony L. He. "Farmers Business Network: Putting Farmers First." Harvard Business School Case 217-025, September 2016. (Revised August 2018.)

FBNの設立時から数百の農民がFBNに加入したおかげで、収量、栽培条件など膨大で多種多様な農業データがFBNのデータベースに入るようになりました.

FBNは収量、資材投入量、土壌条件、耕作方法などのデータを農民が分析して、他の農場との間、特に自分と似た栽培環境を持った農場との間で、栽培状況を比較して、自分の栽培方法が良いかの判断材料に使ってもらえるように試みます. 

FBNによる「Seed Finder」というサービスでは、すべての種子を対象にして、農民が種子ごとに収量、栽培条件(土壌、水利)などを指定して絞り込んで収量データを得ることを可能にしています.例えば、品種を固定して、面積当たり窒素投入量、播種量、植え付け日、気温など様々な栽培条件に応じて収量がどのように変わるかを算出、グラフ化すると、参加農民はその品種に対応した栽培方法の改善手段について探ることが可能になります. 

実際の比較の説明・表示の様子は、以下のFBNのホームページでの「FBN Seed Finder」、「Benchmarking」「FBN Maps & Yield Analytics」というところから伺えます.
[10] Farmers Business Network「Seed & Agronomic Analytics」

比較の際には、品種、肥料の種類、面積当たり播種量、栽培時期、土壌の条件などを細かく指定するなどして、自分の比較判断基準を自由に採れるようになっているため、例えば、農民が種子の違いの効果を見たいとき、種子以外の条件をうまく統制して自分の栽培条件に合わせたデータだけを抽出してその中だけで種子の違いの効果を見ればよいことになります.これによって、種子の違いの効果を他の要因と混同してとらえてしまう恐れが相当減ります.統計学的なデータ解析では、関心のある要因(上記の例では種子の違い)の影響を見たいため、こうした条件の統制を行うことが重視されます.種子に限らず他の資材でも、それを選ぶかどうかで収益にどのような違いがみられるかを同じように分析できます.FBNでは、膨大なデータを収集した上で、農民がこうした条件の統制にもとづき特定の要因の影響分析をおこないやすくなるように、データ抽出処理、計算結果の表示機能に相当力を入れているようです.

FBNに参加する農民は様々な投入量、収量、資材費のデータをFBNに提供するため、FBN側ではこのデータを使って農民ごとに生産費を計算することが可能になります.上記の資料[10]のFBNによる事業紹介に掲載されている、「A Comprehensive Profit-Enhancing System」がこの計算に該当します.

記事②で述べたように、従来は種子等の資材市場が地理的に分断され、農民はメーカーから提供される新しい種子、資材が自分に合っているかを見通せなくなりがちでした.種子メーカーの営業担当者が種子の優れた点を農民に強調して、農民は「勧められたから選ぶ」「ほかの農民が多数選んでいるから自分も選ぶ」という受け身の姿勢に陥りがちでした.

これに対して、FBNに参加すると、農民は、選んだ種子、資材の種類など栽培方法に応じて収量や生産費がどう変わるかについて情報が得られます農民は他地域との種子・資材価格の違い、それらの分布状況を知ることもできます.これらは、農民が種子同士を比較して収益改善につながるような種子を選ぶことを可能にします.また、農民が種子・資材を調達する際、価格交渉に資する材料にもなります.以上からFBNに参加する農民の資材・種子の選択・調達については、従来よりも透明性が飛躍的に高まってくると考えられるわけです.
以上の点に関してFBNのホームページ上での説明は以下です.
[11] Farmers Business Network「Input Price Transparency」https://www.fbn.com/analytics/input-price-transparency

日本では「価格.com」などの商品レビューサイトは参加者も多く以前から多くの日本人に馴染み深いです.上記のFBNのサービスは、「価格.com」の農業版にたとえることも可能でしょう.

FBNによる主なデータアナリティクス事業は、上記と、前の記事③で述べた内容にほぼまとめられます次の記事「Farmers Business Network⑤」では、そのほかのFBNの事業内容について説明します.

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