2021年5月16日日曜日

卒業生の課題研究「五名地区の活性化におけるジビエ活用に関する考察」

 当研究室における本年3月の卒業生、田中彪士さんは、「五名地区の活性化におけるジビエ活用に関する考察」というテーマで卒論研究(課題研究)をおこないました。五名地区は、香川県東かがわ市の南部に位置し、過疎地域活性化に向けた取り組みで全国表彰を何度か受けたことがある地域です。一昨年には「ポツンと一軒家」というTV番組にも取り上げられました。

 以下では、この卒論研究の要旨を抜粋して紹介します。 

 要旨:現代日本の農山村では少子高齢化・人口減少などへの対処が大きな課題になっています。香川県東かがわ市五名地区は、全国過疎地域自立促進連盟会長賞を受賞するなど、農山村活性化への取り組みでは全国的な優良事例として評されています。五名地区での活性化の動きは2018年に「(新)五名ふるさとの家」が設立される前後からジビエへの取り組みを中心に変化を遂げてきています。本研究では、近年、五名地区でどのように地域活性化が進んでいるかを、ジビエを中心に考察します。地域活性化に向けた取り組みのうち特に、五名地区のジビエの経済的利用がいかに発展を遂げているかについて、「(新)五名ふるさとの家」の運営者を対象にした聞き取りから検討を進めます。
 
 本研究の第2章では、まず、五名地区の様々な取り組み内容を整理して、小田切徳美氏『農山村は消滅しない』第Ⅱ章(岩波書店、2014年)で提唱されている地域づくりのフレームワークにそれらがいかに当てはまるかを説明します。
 五名地区では1985年より白鳥林友会による森林管理活動が始まり、2000年代半ばからは(旧)五名ふるさとの家、五色の里が設立されて消費者へのジビエの提供が始まりました。 ジビエの核にした地域活性化の動きが進み出し、2010年代半ばに五名活性化協議会が設立され、そこでの住民間の議論にもとづき、2018年には(新)五名ふるさとの家が開設されました。(新)五名ふるさとの家は、安価で高品質なジビエ料理の提供と産直により高い集客力を持つに至っています。
 本研究では、2000年代から上記活動を通じて五名地区の住民が地元に誇りを持つようになり、小田切(2014)が言う「暮らしのものさしづくり」「主体づくり」の形成がそこで進んでいたことを指摘します。また、五名地区活性化協議会の活動を通じて住民間の議論、コミュニティ活動が進んだり、空き家提供などで生活条件の整備が進んだことから、小田切(2014)が言う「暮らしの仕組みづくり」「場づくり」が五名地区で形成されたことを指摘します。最後に、五名地区では森林資源、ジビエの経済的価値が追求されることで、小田切(2014)が言う「カネとその循環づくり」「持続条件づくり」が形成されたことを指摘します。こうして近年における五名地区の活性化の動きが、全体として、小田切(2014)の提唱する地域づくりのフレームワークに適合していたことを説明します。この最後の「カネとその循環づくり」については特に重要と思われますので、第3章以降で調査結果にもとづき詳しく説明します。

 本研究の第3章では、五名地区の近年のジビエ取り組みに関する調査結果について述べます。(新)五名ふるさとの家の店主のA氏は、香川県外出身で東日本大震災のボランティア経験を経た後に、2016年に知人の紹介で五名地区に移住しました。その後2年間、五名地区で林業研修生に就き、そこでの取り組みなどが評価され、五名活性化協議会によって(新)五名ふるさとの家の店主を任され、ジビエ料理提供にあたるようになりました。
 「五名里山を守る会」によって間伐など森林保全が取り組まれている五名地区の一部地域では、イノシシ、シカの餌となる木の実が豊富に備わり、それを食べたイノシシ、シカの肉質が周辺地域で捕獲されるものに比べて良くなっています。A氏ほか五名地区の狩猟グループは、こうした好条件の地域でイノシシ、シカを(銃ではなく)箱ワナで捕獲し、捕獲後には素早く血抜き、解体処理を済ませます。A氏らは、これらの解体処理を一貫して効率よく行うことで、五名地区で提供されるジビエの味を大きく高めることができていると評価しています。
 A氏は(新)五名ふるさとの家でのジビエ調理に携わっていますが、五名地区に移住する前には沖縄で野生豚の料理提供を行った経験がありました。A氏は、そうした経験から、優れたジビエ調理技術を蓄え、肉の部位ごとに付加価値の違いに留意して、各種食材や販売商品向けに肉を巧みに使い分けることができています。
 このほか、五名地区に住む何人かの女性は、(新)五名ふるさとの家に自家製野菜を提供したり、そこでの皿洗い、A氏の育児を自発的に手伝ってくれたりしています。こうしてA氏がジビエ提供に打ち込めるためのバックアップ体制が確保されています。
 こうした取り組み、体制のおかげで、(新)五名ふるさとの家では絶品に感じられるようなジビエ料理を安価に提供することが可能になっています。そして、その集客力が高位安定し、上で述べた五名地区の「カネとその循環づくり」「持続条件づくり」の形成に大きく寄与していることが伺えました。

 本研究の第4章では、今後の五名地区の活性化に関する展望について述べます。五名地区への来訪者、ファンを今後広げようとした時、SNSの活用を今よりも進めることが課題に挙げられます。また、五名地区への移住希望者に提供できる空き家を確保して五名地区への移住促進につなげていくことも重要な課題に挙げられます(現在は五名地区への移住希望者が多くて、提供できる空き家が不足しています。移住希望者は空き家の順番待ちの状態)。
 他の過疎地域でも、五名地区のように、森林資源の保全管理とイノシシ・シカの捕獲解体処理を効果的に進めることで、森林資源とジビエの経済的利用を補完的に発展させられる可能性が考えられます。ただし、こうした取り組みを進める際には地域住民間の協力も欠かせなくなり、その協力形成のフレームワークを考える際には、小田切(2014)の提唱する地域づくりのフレームワークが参考になると考えられます。五名地区のように丁寧な仕事と少ない人手の中での工夫や協力を編み出す体制を設けることが、その活性化取り組みの大きなヒントになると考えられます。

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