当研究室における本年3月の卒業生、中村将之さんは、「大規模酪農経営における働き方改革に関する考察」をテーマに卒論研究(課題研究)を進めました。
その卒論研究の要旨について以下に抜粋して紹介します。
要旨:近年の日本では農業における若い世代の流入不足と定着率の低さが課題になっています。2019年に働き方改革法案が施行されましたが、農業においては生物を相手にするという性質上、全ての農業経営者がこれに取り組めているわけではありません。この現状は、これからの担い手となりえる新規就農者を受け入れ育てていく上で懸念すべき事態だと思われます。 第2章では、A酪農の現場責任者から見た、従業員管理の状況に関する聞き取り結果について述べます。A酪農では、規模拡大を積極的に進めるに際して、後継者となりうる若い人たちが入社できる環境づくりを重視してきました。具体的には休日を徐々に増やすなどです。一方、A酪農では、下の世代の教育の不十分さと職場内のコミュニケーションの不足になお悩まされています。経営に関する情報や指示が上から下に人を介すごとに、伝言ゲームのように肝心な部分が抜け落ちることが散見されているそうです。
第3章では、A酪農の従業員に対して様々な就業条件・環境についてアンケート調査を行った結果から、統計解析を通じて導かれる結果について述べます。A酪農の従業員に対して就業満足度や就業環境について6段階で評価してもらい、その回答結果を得ました(有効回答22件)。その結果を用いて、A酪農の従業員の就業満足度や長期就業意欲に対して影響する要因について線形回帰分析と、順序ロジット分析を行いました。この分析結果より、A酪農では、従業員どうしで意思疎通がよくなされていると考える従業員ほど、また、休日が適度に確保されている従業員ほど、さらに、経営方針が従業員の間に理解され徹底されていると考える従業員ほど、A酪農での就業に対する満足度を高めて、A酪農に長く勤めたいとより強く考える傾向があることが確かめられました。言い換えると、A酪農の従業員の間には
従業員間の意思疎通、休日確保、経営方針の確認・徹底に対する高い評価→就業満足度、長期就業意欲の改善
という因果関係があることが示唆されています。有効回答が22件でしたので、この結果が頑健かは議論の余地がありますが、決定係数で見た説明力は高くなっていました。
第4章では、A酪農で働き方改革をどのように進めるべきかについて考察します。上記統計解析の結果より、A酪農で従業員の満足度や就業意欲を高められるように働き方改革を進めていく上で、(1)従業員間の連絡・情報共有、(2)休日確保の体制、(3)経営方針の徹底と確認、が特に重視されるべきだと考えられます。
(1)従業員間の連絡・情報共有に関する具体策としては、若い世代が上の世代に相談・質問しやすい環境を作り、これまでに上がった質問事項はSNSなどでリスト化することが挙げられます。
(1)従業員間の連絡・情報共有に関する具体策としては、若い世代が上の世代に相談・質問しやすい環境を作り、これまでに上がった質問事項はSNSなどでリスト化することが挙げられます。
(2)休日確保の体制に関する具体策としては、外国人実習生をより多く導入し仕事の分担を進めることで休日を確保しやすくすることが挙げられます。
最後に、(3)経営方針の徹底と確認に関する具体策としては、始業時に全員で業務計画を確認したり、経営方針を全社員が共有する会合(社長との座談会を含む)を定期的に開いたりすることが挙げられます。
以上のように、大規模酪農経営における従業員の就業意識の調査結果から、働き方改革の進め方について検討を行った点が、本研究の成果と貢献に挙げられます。